「お客様は地元の方がほとんど」、「広告より口コミが大事」――そう語る地域密着型ビジネスの経営者は少なくありません。しかし、こうしたビジネスほど、いま「ブランド戦略」を見直す必要があります。デジタル時代の現在、SNSや検索を通じて地域の情報が全国に発信され、観光客や移住者、テレワーカーといった“地元外”の消費者も地域経済に影響を与えつつあります。地域ブランディングとローカル(プレイス)・ブランディングがクロスする時代において、単なる地元志向の運営から一歩進んだ「地域に根差し、かつ広く価値が伝わるブランド」作りが求められています。
本記事では、これまで地域ブランディングでも実績を積んできた弊社が考える、地方の企業やビジネスが実践すべき地域ブランディング戦略を、「ブランド戦略」の基礎から、「地域創生」に寄与する先進事例までを交えて紹介します。
特に、これから地域創生を見据えた地域ブランドを作りたい!もしくは、再構築したい!という方は、ブランディングに取りかかる前にぜひとも知って欲しいことをまとめていますので、最後までご覧ください。
ストラテジック・デザイナー
T.M.
地域ブランディングとは、「地域の文化、歴史、人々の思い」を背景に、「その土地ならではの価値を可視化すること」です。地域の個性を活かしつつも事業の独自性を明確に伝えていくことが求められます。
特定の地域(市町村、集落、観光地など)に固有の資源や価値を新たな視点で見出し、地域の魅力を発信・強化していく活動も含まれます。
地方自治体が進める「地域創生」政策では、移住促進、観光振興、産業振興が柱となっています。その中で、地域の産品や観光地だけでなく、中小企業や個人店もブランドとして注目されるようになってきました。
地域創生 ≒ 地域の価値をブランドとして可視化・発信することで、新たな「意味」を地域ブランドに持たせ、それは時に観光資源となり、また時に地域活性化の源泉となるのです。
こうした過程の中で、地域ブランディングは地域活性の重要な手段となっています。
モノ消費からコト消費へ、そして「イミ消費(意味のある消費)」へと世の中の消費活動が移り変わる中、消費者は「どんな想いで作られているか」、また、「地域とどんなつながりがあるか」といった“背景”を重視するようになっています。地域に根差した企業は、まさにこうした価値観やニーズに応えやすい立場にあります。
顧客との関係性を決める「意味」を持たせる活動こそが、今回ご紹介する地域ブランディング活動の根幹と言ってもいいでしょう。
では、地域ブランディングでは、具体的にどういったことをするのでしょうか?
ここからは、地域密着型ビジネスが取り組むべき地域ブランディングのステップを具体的に紹介します。
まずは「己を知る」ことが大事です。これは会社や個人商店に限らず地域社会全体で行われるべきことでもあります。
・自社の歴史、創業ストーリー
・地域ならではの素材や風土との関係
・お客様からの「評価されている点」
これらを丁寧に棚卸しすることで、「どこにでもある店」から「この地域でしかできない店」へとシフトできます。
「お客様から評価されている点」を知る意味は、「己を知る」際にどうしても主観的な部分で判断されがちだということです。主観に陥るのではなく、消費者にとって自分たちの何がどう評価されているのか?といった客観的な視点を得ることはとても重要です。
どうやってお客様からの評価を分析するか?については、以前の記事でも紹介していますので、ぜひ参照してください。
棚卸しした情報をもとに、「私たちは何者か?」を一文で表すブランドコンセプトを再定義しましょう。
例:「○○の風土と共に生きる、地域発酵文化の守り人」
「三世代が通う、地元の“ふつう”を支える町のパン屋」
自分たちを端的に表現した文言で、かつ第三者が一目見て「なるほど!」と分かりやすい、シンプルなフレーズがいいでしょう。「これだけじゃ、何をしているんだか、何屋さんなのかわからないな〜」というフレーズはあまりよくないかもしれません。
地域の高齢者、移住者、観光客、地元の子育て世代――誰にどんな価値を届けるかを明確にすることで、SNS発信や店舗体験が一貫したものになります。
これはビジネス自体の根幹でもあります。「誰のどういった課題を解決するのか?」ーーその答えこそが事業であり、ビジネスの中身です。商品やサービスがあっても、誰に向けたものであるのか?不明確なものは届けづらい。また、一方で届けたいターゲットは定まっていても、ターゲットに響かない商品やサービスを作っていては、いつまで経っても”届かない”結果になってしまします。
ここはまず一番重要な要として、しっかりと「誰にどんな価値を届けるのか?」をはっきりさせましょう。このフェーズで、「ズレて」しまうと、発信活動やコミュニケーション設計も一貫性のないものになってしまう可能性が高まりますので、要注意。
ターゲットとコンセプト、全体のコミュニケーションのデザイン設計がされた上で、クリエイティブのフェーズ、VIやブランド体験の設計に入ります。
例としては、
・ロゴ、店構え、パッケージなどの見た目の統一
・接客、体験、コミュニケーションの感じ方の統一
これらにより、「このブランドらしさ」が直感的に伝わります。
ブランドの顧客との関係だけでなく、地域との関係性について設計するフェーズとなります。
・地元高校とのコラボ商品
・商店街イベントやワークショップの開催
・SNSでお客様との物語を共有
「地域と共にあるブランド」という姿勢が、結果的にブランドの信頼性を高めてくれるでしょう。
地域ブランディングの具体的なステップについて端的に説明しましたが、地域ブランディングが地域創生に寄与した例を2つ紹介します。
2000年から開催されている世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」により、十日町市と津南町を中心とした中山間地域がアートによって再注目されるようになりました。
ブランディングの工夫:
「アート×里山」という独自の文脈で地域資源を再解釈
空き家や棚田などの既存資源を現代アートの舞台として活用
地元住民とアーティストが協働する「共創型プロジェクト」
地域創生への効果:
年間来場者数は数十万人規模に成長(特に開催年)
地元の宿泊施設や飲食店の売上が大幅に向上
若手アーティストや移住者による地域活動が持続的に発展
小豆島は日本のオリーブ栽培発祥の地として、観光と農業の両面で「オリーブの島」というブランドを強化。近年は「瀬戸内国際芸術祭」の会場としても注目されました。
ブランディングの工夫:
「オリーブ」を軸に土産品や観光資源を統一
オリーブ公園、オリーブオイル製品、オリーブを使ったグルメなど
地中海風の景観や建物もブランド世界観を演出
地域創生への効果:
修学旅行やインバウンド観光客の増加
地場産業(農産加工、オリーブ商品)の雇用創出
若者による六次産業化の取り組みや移住者の増加
上記2つの事例に共通することがあります。
地域固有の「資源」や「物語」をブランドとして再構築していること
単なる観光PRではなく、「住みたい」「関わりたい」価値を発信していること
住民・行政・外部のクリエイターが協働してブランドを育てていること
地域ブランディングは、あくまで地域創生の入り口であり、継続的な関係人口・定住人口の創出に寄与している点に注目してください。
地域ブランディングを入口として、地域創生に成功している例を挙げましたが、他にも注意してほしいことを紹介します。
というのも、地域商品のブランドは作ってみたものの、地域全体のブランド価値に結びついていないパターンや、広告やロゴを始めとしたVI、見た目を変えただけに終始して、ブランド価値にまったく反映されないといったケースがあまりに多いからです。
特にこれから地域創生を見据えた地域ブランドを作りたい!もしくは、再構築したい!という方は、ブランディングに取りかかる前にぜひとも知っておいてください。
→農産品や商品単体のブランド化 ≠ 地域全体のブランド化
地元の特産物(米、果物、野菜、酒など)を使った新商品を作れば地域ブランドになる、と誤解しているケースが多く見られます。しかしそれは「商品のブランド化」であって「地域のブランド化」とは別物です。地域ブランドには、住民の暮らし・風土・文化・人の魅力など、商品を超えた“全体的な体験価値”の設計が必要です。単一商品の開発で地域の課題が解決することは稀です。
→組織本位で構成された消費者不在のブランド戦略は、消費者行動に結びつかずにうまくいかない
地域の事業者や行政の内部だけで意思決定され、「何を届けたいか」だけが前面に出た戦略では、生活者・旅行者のニーズや課題に届きません。地域ブランディングは、「何をつくるか」よりも「誰のどんな課題を、どのように解決するのか」という視点が重要です。消費者視点のリサーチやインサイトの抽出、ペルソナ設計を丁寧に行うことが成功の鍵です。
→話題性が高まる ≠ 集客や販売
「おしゃれなWebサイト」「美しい観光ポスター」「SNSバズ」などで一時的に話題になっても、現地体験や商品価値がそれに見合っていなければ、来訪者の期待を裏切り、リピートも口コミも起きません。短期的な注目をゴールにせず、実際の現地体験とのギャップをなくす「ブランド体験の整合性」が不可欠です。むしろ、過剰なプロモーションはブランドイメージを損なうリスクすらあります。
→デザインや広告、見た目だけ改善すれば人気が出るという誤解
ロゴやパッケージを刷新すれば売れる、という表面的なリブランディングに陥るケースがありますが、それだけでは継続的な支持は得られません。ブランドは「体験の総合値」であり、商品・接客・場所・価格・ストーリーなどが一貫していなければ、消費者は混乱し離れていきます。「飾る前に、磨く」こと。見た目を整える前に、根幹の価値や体験を磨くことが必要です。
→現代は「感動・共感体験」の共有が価値になる時代
SNS時代の消費者は、自らの体験を即座に発信・共有します。単なる満足や情報提供ではなく、「意外性」「深い感動」「共感」「ストーリー性」がある体験でなければ、拡散されにくいです。さらに、ネガティブな体験は10倍のスピードで伝わるとされており、1つの不満がブランドの信用を一気に損なうことも。顧客の声を“顧客資産”と捉え、ファンづくりに注力する必要があります。
→ 「安いから買う」ではなく、「ここでしか買えないから選ばれる」構造へ
地域の商品やサービスが他地域と似通っている場合、差別化できず価格競争に陥ります。価格以外の「意味の差別化」(例:物語性、体験性、限定性)を明確にし、選ばれる理由をつくることが鍵です。「地域ならではの素材」「独自の生産プロセス」「地元の人との触れ合い」など、競合には真似できない価値の訴求が重要です。
→ 「拡大」ではなく「持続」こそ、地域創生の鍵
地域活性のゴールを「スケールすること(市場拡大)」に置いてしまうと、無理な投資や過剰な観光客受け入れによる弊害が生まれます。国内市場が縮小するなかで重要なのは、「関係人口」「共感人口」との長期的な関係づくりです。「売れる規模」よりも「続けられる仕組み」へと視点を変えることが、結果的に地域を支えるファンベースの構築につながります。
→ ターゲットを分けて設計しなければ、誰にも刺さらない
地域ブランディングでは「みんなに好かれる」ことを目指しがちですが、それは逆に誰にも届かないリスクを孕んでいます。新規層(観光客・移住検討者)には魅力的な入口となる体験や導線が、既存顧客(地元民・リピーター)にはロイヤルティを深めるような特別な関係設計が求められます。両者を同じ施策で満たそうとすると中途半端になり、結果としてブランドがブレてしまいます。
ブランディングは大企業だけのものではありません。むしろ、小さな地域密着型ビジネスこそ、深く根付くブランドの可能性を秘めています。今こそ、あなたの「地域とともにある想い」を、ブランドとして育てていくタイミングかもしれません。
最後に弊社でもこれまで地域ブランディングのプロジェクトとして、リゾートブランドの構築や地方インフラに関わる空港のブランディング等、数々の実績があります。ぜひ弊社のブランディング事例と合わせて、本記事が地域創生、または活性化に寄与する企業の一助となることを願っています。
今日もあなたに気づきと発見がありますように