ストラテジック・デザイナー
T.M.
この数年間で私たちの社会は複雑さを増し、価値観も生き方もかつてないほど多様化しています。文化、言語、家庭環境、発達特性、学習スタイル──教育現場では「多様性※1※1多様性(ダイバーシティ)とは、人種・性別・年齢・価値観・文化・能力など、個人や集団の違いを尊重し活かす考え方・状態を指します。」が日々、文字通り目に見えて現れています。文部科学省は、発表する「誰一人取り残さない『令和の日本型学校教育』」という資料の中で、多様性への包括的な対応を強調しています。また、「ダイバーシティ教育(多様性教育)」は、多くの教育関係者が現代に必須の視点として取り上げるようになっています。
しかし、教育現場で多様性の重要性が語られる一方で、「では、どこへ向かうのか?」、 「多様性の先に、どういった未来を描くのか?」といった具体的な問いに対して、明確な“ビジョン”が不在のまま議論が進むケースが少なくありません。だからこそ今、教育における多様性を叶えるためのビジョンメイキングの重要性が説かれるべきではないでしょうか。生徒や教師、学校や地域といった関係各所や各人が、多様な個性を受け入れながら未来志向で学びの道筋を描くためには、「教育のビジョンをいかに描くか」が鍵となります。
本記事では、教育の多様性を語るにあたり、生物の多様性や環境デザイン※2※2人間の生活や活動に適した物理的・社会的環境を設計・整備すること。都市空間や建築、自然環境まで、快適性・安全性・持続可能性を考慮して総合的に計画する学問・実践領域です。の視点も織り交ぜながら、未来を創る学びのビジョンメイキングについて深掘りしていきます。
※1 多様性(ダイバーシティ)とは、人種・性別・年齢・価値観・文化・能力など、個人や集団の違いを尊重し活かす考え方・状態を指します。
※2 人間の生活や活動に適した物理的・社会的環境を設計・整備すること。都市空間や建築、自然環境まで、快適性・安全性・持続可能性を考慮して総合的に計画する学問・実践領域です。

文部科学省は、令和以降の教育において、「多様性ある学びの構築」を明確な方針として掲げています。これは、従来の画一的な教育から脱却し、一人ひとりの学習者が持つ個性や背景を尊重しながら、協働的に学ぶ力も育むことを目指すものです。ここでは、文部科学省が現行で示す「教育における多様性の捉え方」を、主に4つのポイントとして詳しく紹介します。
個別最適な学びとは、学習ペースや学習内容、学習方法を学習者個人の理解度や興味・関心に合わせて柔軟に調整することを指します。たとえば、AIやデジタル教材を活用し、得意な分野はさらに伸ばし、つまずいている分野には追加支援を行うといった学習支援が該当します。
一方、協働的な学びとは、学習者同士が互いの違いを認め合い、アイデアを出し合いながら共に創造する学びのことです。ディスカッションやプロジェクト型学習など、チームで成果を生み出す活動がこれに含まれます。
文部科学省は、この「個別最適」と「協働」の両輪を同時に実現することを教育現場に求めています。つまり、個々の学びの進捗を尊重しながら、社会で必要とされる協働力も育む教育デザインが求められているのです。
学習困難を抱える子どもや、生徒の多様な文化的・社会的背景に配慮した教育が強調されています。従来は周縁化されがちだった子どもたちに対しても、学びの機会を保障することが重要視されています。
具体的には、
・発達障害や学習障害のある生徒への個別支援
・多文化・多言語環境にある子どもへの日本語指導や適応支援
・経済的・社会的理由で教育機会が制限されがちな子どもへの学習支援
以上に挙げたように、全ての子どもが教育にアクセスできる環境づくりが進められています。これは、SDGsの「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」の理念とも整合しています。
文部科学省は、個別最適な学びを実現する手段として、ICTやデジタル技術の活用を重視しています。具体例は以下の通りです。
具体的には、
・デジタル教材:動画やアニメーションを活用した理解支援教材
・AIドリル:学習履歴に基づいて問題を最適化するアダプティブラーニング
・オンライン授業:地域や学校の枠を超えた学びの機会
・生成AIの活用:作文やレポート作成支援、思考の可視化
これらは単に便利なツールではなく、学習環境そのものを設計する「環境デザイン」として注目されています。ICTを駆使することで、学習者一人ひとりに最適化された学びと、協働的な学びの両立が可能となります。
※3 ICT(Information and Communication Technology)とは、情報通信技術のことで、コンピュータやネットワーク、ソフトウェアを活用して情報を収集・処理・共有・伝達する技術や仕組みを指します。
文部科学省は、「未来思考(未来志向)」を教育の重要キーワードとして位置付けています。これは、変化の激しい21世紀社会を生き抜くための思考力や態度を育むことを意味します。
特に重視される力としては、以下が挙げられます。
具体的には、
・課題発見力:社会や生活の中の課題を見つけ出す力
・創造力:新しい価値や解決策を考え出す力
・協働力:多様な人と意見を交換し、共に成果を生み出す力
・多文化理解:異なる文化や価値観を理解し、共生できる力
2030年以降の社会では、これらの力が不可欠であるとされ、文部科学省は教育現場での育成を強く促しています。
このように、文部科学省は単なる知識習得ではなく、多様性を尊重した個別最適な学びと、社会的スキルや未来志向を兼ね備えた教育の実現を目指しているのです。

多様性教育は、理念として語られるだけでなく、すでに現場で具体的な形となりつつあります。従来の画一的な授業ではなく、生徒一人ひとりの背景や特性を尊重し、多様な学び方を可能にする教育の実践が広がっています。ここでは、現場で進む多様性教育の代表的な事例を紹介します。
オンライン教材やアダプティブラーニング(学習者の理解度に応じて自動で教材内容を調整するシステム)を活用することで、生徒のつまずきポイントや得意分野をリアルタイムに把握し、学習内容や進度を個別最適化する取り組みが進んでいます。
このアプローチは、生物が環境に適応して生き延びる姿に似ており、学習者一人ひとりが最も学びやすい環境を自動で設計する点で、ICTはまさに“環境デザイン装置”として機能しています。
さらに、AIを活用することで、教師が目の届きにくい学習データの分析や個別指導の計画をサポートすることも可能となり、学習の効率化と個々の生徒へのきめ細かな支援が両立できるようになっています。
多様性教育の実践は、ICTだけにとどまりません。関西学院大学のレポートによれば、外国にルーツを持つ生徒や発達特性のある生徒に対して、教師が「真っすぐな言葉で向き合う」ことの重要性が指摘されています。
ここで強調されるのは、多様性理解は単なる技術ではなく、教育者としての姿勢に依存するという点です。異なる文化背景や学習特性を持つ生徒と向き合う際、教師自身の柔軟性や共感力、誠実な態度が教育の質を大きく左右します。このような取り組みにより、生徒は安心して学びに集中でき、自己肯定感や社会性の向上にもつながるとされています。
さらに、AIを活用することで、教師が目の届きにくい学習データの分析や個別指導の計画をサポートすることも可能となり、学習の効率化と個々の生徒へのきめ細かな支援が両立できるようになっています。
現在、多くの学校では、多様性理解を目的としたワークショップや特別授業が導入されています。例えば、以下のテーマに基づいたプログラムが実施されています。
・他文化理解:異なる文化や価値観を持つ人々との交流を通して、偏見や固定観念を取り除く。
・ジェンダー理解:性別に関する固定観念やステレオタイプを学び、すべての生徒が平等に学べる環境を意識する。
・障害理解:障害を持つ人の視点に立ち、配慮や支援の必要性を理解する。
開隆堂出版が紹介する事例では、「多様な価値観を持つ他者と対話する授業」を実践しており、生徒同士の意見交換や協働活動を通じて、実体験として多様性を学ぶことができるよう工夫されています。こうした教育は、単に知識を教えるだけでなく、生徒が自らの価値観を問い直し、他者との違いを尊重しながら創造的に学ぶ力を育むことを目指しています。
これらの事例から見えてくるのは、多様性教育は個別最適化学習と協働的学習、ICTと人間的な指導の両立によって初めて効果を発揮するということです。教育現場では、単なる理念や座学にとどまらず、テクノロジーや具体的なプログラムを活用しながら、生徒が多様な背景や能力を持つ仲間と共に学ぶ経験を積むことが重要視されています。
未来を見据えた教育の中で、多様性教育は、個々の学びを最大化すると同時に、協働力や共感力といった社会で求められる力を育む鍵となっています。
| 多様性教育=環境×姿勢×カリキュラムの融合 | |
|---|---|
| 環境 | ICT、空間デザイン、特別支援など |
| 姿勢 | 違いを尊重するマインドセット |
| カリキュラム | 対話・協働・探究 |

ここまで「多様性」について考察してきましたが、教育において次に重視されるのは、「未来をどう描くか」という力です。文部科学省が提唱する「School of the Future」においても、この概念は最重要テーマのひとつとして位置付けられています。
未来志向とは単に未来を予測することではありません。むしろ、「まだ存在しない未来を想像し、構想し、創り出す力」のことを指します。変化の激しい社会において、子どもたちに求められるのは、単に答えを暗記する力ではなく、以下の力です。
・問いを生み出す力:現状に対して疑問を持ち、課題を設定する力
・解決策を創る力:創造的に課題解決の方法を構想し、実践できる力
この力は、社会の不確実性が高まる中で、子どもたちが主体的に学び、未来の課題に対応していくための基盤となります。
未来をつくる力は、一人だけで生まれるものではありません。異なる文化的背景や価値観を持つ人々同士の対話や協働によって、新しい価値やアイデアが生まれることが研究や教育現場でも明らかになっています
このプロセスは企業のイノベーション創出にも通じます。教育においても同様に、未来志向を育むためには以下の3つの要素が重なり合うことが重要です。
・多様性:異なる考え方や価値観に触れる経験
・協働:他者と協力して課題解決に取り組む経験
・ビジョン:自分や社会の未来像を描き、目標を設定する経験
これらの要素が重なる領域こそ、子どもたちの創造性が最大化される場所です。つまり、未来志向の教育とは単なる知識伝達ではなく、子ども自身が未来を構想し、創り出す力を育む教育であると言えます。

過去のINSIGHTSの記事で紹介したビジョンメイキングの考え方を学校教育に転用し、「現状(As-Is) → 未来の外部環境(To-Be外部) → 未来の理想像(To-Be内部) → 道筋(戦略) → 共通言語化」 の流れで、学校全体の教育ビジョンを明確にしていきましょう。
まず、学校が「今どこにいるのか」を丁寧に把握することから始めましょう。学力や生活面だけでなく、学級経営、ICT環境、文化的背景、学校組織の状態など、多面的な視点が重要です。
①生徒の多様性
・発達特性の幅が広く、支援の必要度が個別に異なる
・帰国生、外国にルーツを持つ生徒が増加し、日本語習得状況もばらつく
・家庭環境や経済状況による学習格差の存在
②学習環境
・ICTの活用度にばらつき(端末の持ち方・家庭の通信環境・教師のスキルなど)
・授業は依然として「一斉講義」が中心の傾向
③学校組織・教師の状況
・教師の多忙化が加速し、新たな取り組みが浸透しづらい
・組織的な情報共有が弱く、属人的に取り組みが進みがち
・教育の専門性・ICT活用・特別支援など必要スキルが増大
こうした「現状地図」を作ることで、次のステップで描く未来との差分が明確になります。
文科省やOECD※4※4OECD(経済協力開発機構)は、加盟国の経済成長や貿易・教育・環境政策の協力を促進し、国際的な課題解決や生活水準向上を目指す政府間組織です。の未来予測、社会トレンドを踏まえて、2030年以降に学校を取り巻く環境がどう変化するかを仮説としてまとめてみましょう。
①AIが“学習パートナー”として常時利用される
・AIが個別に課題を出し、フィードバックを行い、学習履歴管理も実施
・生徒の「思考ログ」が蓄積され、学びの可視化が進む
②多文化・多様性が当たり前の社会
・言語・文化・価値観が異なる人々と協働する力が必須
・Inclusion(包摂)の概念が学校教育でも中心テーマになる
③自律的な学び(Self-Directed Learning)が重視される
・生徒が自分で課題を設定し、自分で学び方を選択する
・“教わる力”より“学びをデザインする力”が問われる
④生涯学習・リスキリングが前提の時代
・学校教育で「学び続けるための土台」を作る重要性が高まる
・探究的な学習姿勢が社会に直結
未来の環境を描くことで、教育が向かうべき方向性が自然と見えてきます。
※4 OECD(経済協力開発機構)は、加盟国の経済成長や貿易・教育・環境政策の協力を促進し、国際的な課題解決や生活水準向上を目指す政府間組織です。
上記の社会背景をふまえ、学校が実現したい理想の教育像を明確にしましょう。これは「教育理念を未来にアップデートした形」ととらえることができます。
①一人ひとりの個性が活きる学び
・発達特性・興味関心・文化背景に応じた学習経路が選択できる
・画一的な評価ではなく、成長のプロセスを重視
②“違い”を価値と捉える学校文化
・異質性を否定しない
・生徒同士が互いの背景・視点を学び合う場を意図的に作る
③探究と対話を中心とした授業デザイン
・「問い」から始まり、「調査→議論→成果物」のサイクルが標準化
・AIによる情報整理を活用し、人間は深い思考・協働に集中
④教師は“教える人”から“学びの伴走者”へ
・ファシリテーター・コーチ・学習デザイナーとしての役割が中心
・教える負担はAIに委ね、人間ならではの支援を強化
この To-Be の内部像は、学校のビジョンとして関係者全員が共有できる形にします。
理想像を実現するための、具体的で実行可能なステップを整理しましょう。
①ICTによる個別最適化学習の推進
・AIドリル・学習ログ分析・個別最適課題の導入
・デジタル教材の標準化と教師への研修
②多様性理解を深める学校プログラム
・ダイバーシティ&インクルージョンのワークショップ
・異文化交流イベント・対話の仕組みづくり
③探究学習の本格的な拡充
・地域・企業・大学との連携プロジェクト
・1年間を通した「探究の型」の確立
④学校の空間デザインの見直し
・協働学習スペース・個別ブースなど多様な学びに対応
・ICT環境の整備と、学習に適した動線の再設計
戦略は単なる施策の羅列ではなく、「どの順番で・どれくらいの期間で」 進めるかまで設計すると実行しやすいでしょう。
ビジョンは「見える化」しなければ力を持ちません。作成したビジョンや戦略は、可視化(見える化)して共有することで、初めて現場で機能する準備が整うことを忘れないようにしてください。
・ビジョンマップ
・学校の「未来像ポスター」
・生徒・保護者向けガイド
・年間指導計画への落とし込み
・教員研修での繰り返し活用
・校内ポータルでの継続発信
共通言語があることで、学校全体の意思決定や実践が「同じ方向」に揃い、継続的な改善が可能となります。
以上に紹介したようにビジョンメイキングの考え方を教育に応用することで、学校・教師・生徒が共通で使える学びのビジョンを構築できます。まず現状の課題や多様性を把握し(As-Is)、未来社会の変化を見据えた理想の学習環境(To-Be)を描きます。
その上で、一人ひとりの個性を活かし、違いを価値とする教育像を言語化し、ICT活用や探究学習の拡充など具体的な戦略を設計。最後にビジョンを「見える化」し共有することで、学校全体の教育実践を統合的に推進します。

これからの学校は、従来の「知識を伝達する場」という役割から大きく進化し、多様な学びが相互に循環し、成長を生み出す『学びのエコシステム(学びの生態系)』 へと変化すると考えられます。自然界における生態系のように、学校も多様な要素が連携し、互いに影響し合う環境として設計されるのです。
未来の学びの場では、学校だけでなく、社会全体が学習に関わるプレイヤーとなります。具体的には次のような構造です。
・学校:教師やカリキュラムだけでなく、学習の進捗を見える化し、探究的な学習プロジェクトを企画・運営します。
・地域社会:地域企業、NPO、自治体、公共施設などと連携し、実社会の課題を学習のテーマに取り込むことで、学びが社会と直結します。
・企業:実務体験やインターンシップを通して、技術やビジネスの最新動向に触れ、学びを現実に応用できる機会を提供します。
・オンラインコミュニティ:世界中の学習者や専門家とつながり、互いに知識を共有したり、協働プロジェクトを行う場として機能します。
・AI・デジタルツール:個々の学習履歴や興味関心を分析し、最適な教材や課題を提示することで、教師と生徒の学習体験をサポートします。
このように、多様な主体が学習プロセスに関わることで、教育は「学校内だけの閉じた活動」から「社会全体と連動する開かれた生態系」へと変わります。
学びのエコシステムでは、学習プロセスが単線的ではなく、循環構造を持つことが重要です。例えば次のようなサイクルが生まれます。
探究学習の実施
生徒は自ら課題を設定し、調査や分析、実験、議論を通して深く学びます。
・地域や企業との連携:教学校外の専門家や社会資源と協働することで、学んだ内容を実世界に適用します。
・結果を学校へ還元:実社会での経験や成果を学校に持ち帰り、クラスや学年全体で共有することで、新たな知識や気づきが生まれます。
・新たな学びへの接続:共有された知識や経験が、次の探究課題やプロジェクトに自然に連鎖し、学びが循環します。
この循環構造により、学習は「点」の活動ではなく、学校全体と社会を巻き込んだ「動的で持続的なプロセス」として成立します。
自然界の生態系が多様な生物の存在を前提にしているように、未来の学びも多様性を原動力に進化します。生徒一人ひとりの興味関心、能力、文化的背景の違いが、学びのエコシステムを活性化させる燃料となります。
個性の異なる生徒同士が協働することで、新しい発想や解決策が生まれます。
・多文化的な価値観や異なる思考法が共存することで、創造性が高まる
・教師は個々の強みを引き出す伴走者として機能し、学習コミュニティ全体の循環をサポートする。
こうして、学びは学校内だけで完結するものではなく、社会全体が連動する持続可能な生態系として拡張されます。

これからの教育において、単に知識を伝えるだけの従来型教師の役割は大きく変化します。多様性を尊重し、未来志向で学びをデザインし、ビジョンを生徒と共有するためには、教師自身が「学びの伴走者」であり、「未来を共に描く存在」であることが求められます。
・知識を教える人:
教科書やカリキュラムに沿って知識を一方的に伝えることが中心
・学習の中心は教師:
教師が教える→生徒が覚える、という一方向的な学習構造
・個々の学びの多様性は二次的:
全員に同じ内容を伝えることが優先され、個性や興味関心に合わせた柔軟な対応は限定的
・学びの伴走者:
生徒一人ひとりの学びを観察し、適切な助言やサポートを行う
・未来を共に描く存在:
学びの目的や将来像を生徒と一緒に考え、探究プロジェクトや課題解決に導く
・環境デザイナー:
個性や興味関心を最大限に引き出す学習環境を整え、学びが循環するエコシステムを作る
・個別最適化の支援:
生徒の発達特性や興味に応じて課題や教材を調整する
・対話・フィードバックの重視:
生徒の思考を引き出し、課題に対する多様なアプローチを一緒に考える
・学びの可視化:
学習の進捗や成果を「見える化」し、達成感や次の探究への意欲を育む
・社会や地域との橋渡し:
学びの成果を学校外に還元し、現実世界との接続を支援する
教師の役割変化を自然界に例えるなら、 “光合成をする樹木”ではなく、“栄養循環を支える土壌”のような存在です。生徒という「個性の種」が伸びるための土壌=環境づくりこそが、教師の新たな専門性になります。
また教師の本質も、知識を与える存在から、学びを循環させる環境そのものの設計者へとシフトしていくことが予想されます。生徒は、自らのビジョンを描きながら、多様性を価値に変え、未来を切り拓く力を身につけることができるのです。
本記事で繰り返し紹介したように、教育における多様性は、単なる課題や混乱の源ではありません。むしろ、それは未来を切り拓くための原動力であり、学びの可能性を広げる重要な資源です。異なる発達特性、文化的背景、学習スタイルを持つ子どもたちが共に学ぶことは、一見すると複雑に見えますが、その多様性が生徒同士の対話や協働を生み、創造的な学びを生むのです。
そして、未来志向(未来を考え、構想する力)は、その多様性のエネルギーに方向性を与えます。学びをただ受け身で消費するのではなく、未来を見据えて学ぶことで、子どもたちは自らの学びをデザインする力を身につけていけるでしょう。さらに、ビジョンメイキングは、漠然とした可能性を具体的な形に変えるプロセスです。目に見える目標や道筋を示すことで、多様な学びのエネルギーが一つの方向に向かい、学校全体の教育の質を高めることができます。
生物多様性が自然界の生態系を強くし、環境変化に適応させるように、教育の多様性も学びの生態系を豊かにし、未来をしなやかにします。一人ひとりの個性や背景の違いを活かしながら、探究学習や協働活動、地域や企業との連携を通じて学びを循環させること。それこそが、これからの教育に不可欠な要素です。
これからの教育には、単に「知識を教える」「技能を身につけさせる」といった従来型の役割を超えて、「多様性を尊重し、未来を描き、ビジョンを共有する文化」を学校全体に根付かせることが求められます。ビジョンは未来を“予測”するためにあるのではなく、未来を“創り出す”ために存在するのです。
私たちは今、教育の生態系を再構築する転換点に立っています。多様性を尊重し、未来志向を取り入れ、ビジョンを明確化することで、子どもたちは自らの力で未来を切り拓く学び手へと成長するでしょう。そしてその学びの循環が、学校や地域、社会全体の成長を支え、持続可能で豊かな未来を形作っていくのです。
今日もあなたに気づきと発見がありますように