ストラテジック・デザイナー
T.M.
皆さんは、学校の授業や宿題のやり方が昔と比べてずいぶん変わってきたことに気づいていますか?筆者の私が子どものころの学校を思い出してみると、教室に並ぶ黒板、チョーク、教科書、そしてノート。どれも当たり前に存在していました。しかし、今の学校や家庭ではタブレットやパソコンを使って学ぶことが当たり前になりつつあります。この20〜30年間での出来事です。そして、ここ数年においてはAI(人工知能)が子どもたちの学びを助ける時代になりました。
AIは私たちの生活の中で、スマホやゲーム、家電などで身近になってきており、教育の分野にも入り込んでいます。子どもたちがどのように学ぶか、親や先生が子どもの教育にどう関わるのかまで、教育のあり方そのものが大きく変わろうとしているのです。
本記事では、AI時代における教育の現状とデジタル学習の課題、そしてこれからの教育のあり方について、筆者の考えも交えて整理して紹介していきます。

AI時代に入り、それまで”当たり前”とされてきた教育のあり方が変わってきています。まず、AIが子どもの学びをどう変えていくのか?予測も含めながら、その背景として家庭内の子育てにおいて、AIを活用する親が増えていることなども交えて考察してみましょう。
最初にAIが子どもの学びをどうサポートし、どういったメリットをもたらす可能性があるのかについて紹介します。
AIは、一人ひとりの子どもに合わせた学習をサポートする力があります。例えば、計算が得意な子には少し難しい問題を出して挑戦させ、逆に苦手な部分には優しくヒントを出してくれる、そんな学習アシスタントになれます。同時に、AIは子どもたちの学習の進み具合や理解度をデータとして蓄積できるため、先生は子どもたち一人ひとりの状況をより正確に把握できるようになります。これにより画一的な教育ではなく、子どものペースや理解に合わせた教育が可能となるかもしれません。
さらに、AIは学びの楽しさを広げるツールとしても役立ちます。プログラミングの学習や理科の実験のシミュレーションなど、AIを使うことで学校の教室だけでは体験できなかった学びを自宅でも体験できるようになるのです。
AIが教育に使われる場面は、すでに世界中で増えています。
(例)
・子どもの理解度に合わせて問題を出してくれるAI教材
・発音をチェックしてくれるAI英語学習アプリ
・子どものつまずきを早期に見つけ、学習の計画を直してくれるAI指導ツール
こうしたAIの活用は、一人ひとり違う学び方・得意不得意に合わせて、最適なスピードや順番で学習をサポートしてくれます。
つまり、AIは「誰かと比べる教育」ではなく、 “自分だけの学び”を進めやすくするポテンシャルを有しているといえるでしょう。
AIを学習に活用するポイントとしては以下の2点です。
・“一斉授業”ではなく“1人ひとりに最適な学び”を提供できる
・AIは教師の代わりではなく“サポーター”として取り扱う
ChatGPTやGeminiといった生成AIが登場して以降、AIを育児や教育に取り入れる家庭が増えています。「子どもの興味や得意に合わせて教材を変えたい」、「家庭学習をもっと効率よくしたい」と考える親が、AIを活用しているのです。
例えば、AI搭載の学習アプリやロボットを使うことで、子どもがわからない部分を自動で判断して繰り返し学習させることができます。また、親が仕事で忙しくても、AIが宿題の進み具合をチェックしたり、問題を出してくれたりするため、子どもが自分のペースで学べるようになっています。このように、AIは親と子ども、先生と子どもをつなぐ「学びのサポーター」としての役割を持つようになってきています。
参考資料によると、子育てでAIを利用する親は年々増えており、実際にこんな使われ方をしています。
・子どもの悩みや発達に関する相談
・子どもに合った学習プランの作成
・毎日の子育ての記録をAIにまとめてもらう
・しつけの方針を相談する
・絵本やお話をAIが作って読み聞かせてくれる
理由はシンプルです。「子育ては大変。だからこそ、助けてくれる手が多いほうがいい」といったものです。
共働きが増え、家庭の時間が少なくなる中で、AIが「もう一人の大人」のようにサポートしてくれることで、親の負担が軽くなっています。もちろんAIは親の代わりにはなりませんが、手助けしてくれる“心強い味方”として認識され始めているのです。

日本では文部科学省が、学校へ1人1台のタブレット導入を進めています。これは「GIGAスクール構想」※1※1全国の小中学校に児童生徒1人1台の端末と高速ネットワークを整備し、ICT(情報通信技術)を活用した個別最適な学びを推進する日本の教育政策です。と呼ばれ、いまではほとんどの小中学校でタブレット学習が行われています。では、デジタル学習の良い点とは何か?た他方で、どのような課題があるか見ていきましょう。
※1 全国の小中学校に児童生徒1人1台の端末と高速ネットワークを整備し、ICT(情報通信技術)を活用した個別最適な学びを推進する日本の教育政策です。
日本の学校でも、デジタル教材やタブレットを使った学習が広がっています。文部科学省の資料によると、デジタル学習には次のようなメリットがあります。
① 理解度に合わせた学習ができる
→苦手な子にはゆっくり、得意な子には難しい問題を出すなど、一人ひとりに合わせた学びが可能。
② 動画やアニメでわかりやすく説明できる
→実験動画や図解が簡単に見られるので、イメージがしやすい。
③ 繰り返し学習がしやすい
→タブレットなら、わからなかった場所をすぐに戻って学習できる。
④ データで学習状況を把握できる
→先生も保護者も、子どもの得意・苦手が見える化される。
⑤ 距離に関係なく学べる
→地域によって受けられる教育が違う、という問題を小さくできる。
こうしたメリットによって、子ども一人ひとりに合わせた学びが可能になり、学習の格差を少しずつ減らす効果も期待されています。
一方で、文部科学省の資料にもあるように、デジタル学習には課題もあります。
・画面時間の増加
→タブレットやスマホを使う時間が増え、目や体への負担が心配される。
・コミュニケーションの減少
→AIやアプリで学習が進むと、先生や友達との会話が減る可能性がある。
・学習効果のばらつき
→アプリやAIの使い方によって、効果が出る子と出にくい子がいる。
・保護者の理解不足
→新しい技術をどう活用すればいいか、親自身が学ぶ必要がある。
つまり、デジタル学習は万能ではなく、使い方やバランスが大切なのです。
特に重要なのは、「デジタルには向いている学びと、向いていない学びがある」ということです。
(例)
・友だちと話し合う
・手を動かして体験する
・自分で考え、まとめる
こうした“人間らしい学び”は、タブレットだけでは身につきません。そのため日本でも、「デジタルとアナログをどうバランスよく使うか?」という議論が進んでいるのです。

デジタル教育やデジタル学習が推進される一方で、世界では「デジタル学習をいったんやめよう」という動きも生まれています。特に注目されているのが、フィンランドやスウェーデンなどの北欧諸国です。北欧諸国の学校では、あえてデジタル学習を減らす動きがあります。たとえば、フィンランドでは「小学校低学年ではタブレットを使わず、体験型学習や友達との協働を重視する」という方針が広がっています。
北欧の教育関係者がデジタル学習を実施した上で懸念しているのが以下のような問題です。
・子どもの集中力の低下
・読む力、書く力の低下
・画面依存
・社会性の発達の遅れ
「タブレットに触れる時間が増えすぎると、子どもの発達に悪い影響が出るのでは?」という専門家の声から、紙の教科書に戻そうとする国もあるようです。
背景には、早すぎるデジタル依存が学びやコミュニケーションに与える影響への懸念があります。デジタルが学びを助ける一方で、人と関わる力や考える力を育てる時間も必要だと考えられているのです。
もちろん、北欧は「デジタルがダメ」と言っているわけではありませんが、“子どもに本当に必要な学びは何か?”を改めて問い直している状態であるといえるでしょう。
このように、AIやデジタル学習を取り入れるかどうかは、国や地域、学年によって最適解が変わることがわかります。北欧諸国のデジタル教育の見直しの動きは、「子どもにとって最適な学びは、国や地域によって違う」という考え方が広がっていることの証左かもしれません。

AIの発展、デジタル学習の広がり、それに対して課題を感じている北欧諸国の動き―これらはすべて、一つの大きな流れを表しているとも考えられます。それは、「教育分野における価値観の多様化」が進んでいるのではないか?ということです。
これまでの教育は、「みんな同じ授業を受ける」ことが基本でした。しかし、AIやデジタル教材の導入により、子ども一人ひとりの得意・不得意や興味に合わせた学びが可能になっています。
例えば、算数が得意な子はAIが難しい問題を出して挑戦させ、国語が苦手な子には読解のヒントを出す、というように、個別最適化が進むのです。
これまでは、以下のような“一律”の教育が当たり前でした。特に日本においては、近年徐々に見直す動きが現れてはいますが、数十年来(おそらくは、親世代、そのまた親世代も同様な教育環境にいたかもしれない)、続いてきた学校教育の典型です。
・教科書はみんな同じ
・勉強するスピードも同じ
・登校する学校もほぼ地域で決まる
しかし、これからは以下のように変化していくことが予想されます。
・AIを使った個別最適化学習
・デジタルを最小限にする教育
・アートや体験を中心にした学校
・国語力・思考力に特化した教育
・森のような自然の中で学ぶ学校
・インターナショナルな環境の学校
教育の選択肢がどんどん増えることで、家庭の価値観に合った教育を選べる時代がやってくるのではないか?と筆者は考えています。
教育が多様化しているのには、いくつかの背景が考えられます。
・技術の進化
→AIやデジタル教材により、個別に対応した学習が可能になった。
・社会の変化
→将来必要な力は一人ひとり違う。学力だけでなく、創造力やコミュニケーション力も重要になってきた。
・家庭の多様化
→共働き家庭や地域ごとの教育環境の違いなど、学びの条件が多様化している。
・国際的な動き
→北欧諸国のように、デジタル学習を減らして体験型教育に力を入れる国もあり、多様な教育のあり方が試されている。
上記の背景を踏まえて、教育が多様化している主な要因は3つあると考えます。
現代の家庭では、子どもに望む教育の方向性が本当に多様です。「個性を伸ばしてほしい」「グローバルに通用する力をつけてほしい」「デジタル技術に強く育ってほしい」「自然の中での体験を通じて育ってほしい」など、家庭ごとに教育に対する期待や価値観が異なります。これにより、画一的な教育方法ではなく、子どもの個性や家庭の教育方針に応じた柔軟な学びが求められるようになっています。
AIを活用した学習支援やオンライン授業、個別最適化された学習プログラムなど、教育技術の進化により、従来の一斉授業では提供できなかった多様な学びの形が実現可能になっています。例えば、AIによる学習データ分析で苦手分野を補強したり、国境を越えたオンライン交流で語学力や異文化理解を深めたりすることもできます。このように技術は、子ども一人ひとりに合わせた学習の自由度を格段に広げています。
世界各国では教育の価値観や学び方が大きく異なります。北欧では創造性や社会性の育成が重視される一方、アジアの一部の国では学力や知識の定着が強調されます。こうした国際的な教育の多様化は、日本の教育にも少なからぬ影響を与えています。海外の教育事例や先進的な学習プログラムが紹介されることで、日本でも従来の画一的な教育から、多様な学習スタイルや選択肢を尊重する方向への変化が進んでいます。
この3つの要因が合わさり、今後も教育は確実に変わっていくのではないかと予測されます。

AIやデジタル学習が進む中で、教育でいちばん大切なものとは何なのでしょうか。それこそたくさんの意見や考えがあることだと推察しますが、筆者は、子ども自身が学ぶ意欲を持ち、考える力を育もうとすることではないか?と考えます。
AIは学習をサポートしてくれますが、子ども自身が「もっと知りたい」「自分で考えたい」という気持ちを持たなければ、学びは深まりません。同時に、先生や親も、子どもが自分で考えられるように導く役割が不可欠です。
さらに重要なのが、人との関わりや体験です。AIやデジタル教材だけでは得られない、友達や先生とのやり取り、自然や社会の中で学ぶ経験は、子どもの成長に欠かせませんし、何よりも「人間力」が重要視される社会になると予想されるAI時代においては、コミュニケーション力を始めとした「人との関わり方」、「人としての立ち居振る舞い方」を育んでいくことも忘れてはならないのではないでしょうか。
そこで、「教育」をしていく立場にある人間や組織にとって必要なことがあります。それが、「教育ビジョン」です。教育ビジョンとは、「どんな未来を子どもに願うのか?」ということです。
AIがどれだけ便利になっても、デジタル学習がどれほど進んでも、逆にデジタルを手放す動きが出ても――。最も重要なのは、「その子がどんな未来を歩んでほしいのか」という親や教育者の“未来への願い”ではないでしょうか?
・思いやりのある子に育ってほしい
・自分の頭で考えられる人になってほしい
・新しいものを創り出せる人になってほしい
・世界で通用する力を持ってほしい
・自分らしく生きてほしい
どのような願いでもかまいません。ただ、その願い=教育の理念(教育ビジョン)を明確にしておくことが、AI時代の教育ではこれまで以上に大切になるものと筆者は考えます。教育の選択肢が増えたからこそ、何を選ぶべきかを判断する軸が必要になるからです。
AI時代の教育は、昔のように「みんな同じ授業を受ける」だけの教育ではありません。AIを使って個別最適化された学びを選ぶこともできれば、体験や人との関わりを重視する学びを選ぶこともできます。
つまり、教育はますます「選べる時代」になってきています。子ども一人ひとりが、自分に合った学び方を見つけられる社会。それが、AI時代に向けた教育の理想像です。
これからの教育は、技術と人との関わりを上手に組み合わせながら、子どもたちが自分らしく成長できる未来を作っていくでしょう。AIはそのサポート役として、私たちの教育の可能性を広げてくれるのです。
しかし、選択肢が増えると、親にとって迷うことが増えるでしょう。だからこそ、「我が家は、どんな未来を子どもに願うのか?」といった問いを家族で話し合うことが、これまで以上に大切になっていくでしょう。
AI時代の教育は、ただ便利なだけでも、ただ新しいだけでもありません。それは、一人ひとりの子どもの未来を、自由に選び、自由につくっていける時代でもあるのです。
子どもたちに、どんな未来を歩んでほしいですか?
そして、その未来に向けて、どんな教育を選んでいきたいですか?
今日もあなたに気づきと発見がありますように