MENUMENU
  • Vol.174
  • BRANDING
  • 2025.6.20

ブランドを作り変えたい!リブランディングのタイミングと方法

事業継承の2025年問題が深刻化する中、日本の中小企業・小規模事業者の経営者の約半数が70歳以上だと言われています。後継者が決まっていない企業が多数存在する中で、後継者を社外から迎える、もしくはM&Aを活用する方法などがありますが、いずれの方法にしろ、事業継承をするにあたり、企業文化をどう引き継いでいくのか?従業員はどうするのか?といった課題を避けては通れません。そこで、必要となるのがブランド戦略です。

ブランド戦略とは、企業やプロダクトのブランドイメージを意図的に設計し、管理していく取り組みを指します。そして、事業継承や海外進出など、時にそのイメージを刷新する必要が生じることがあります。それが今回紹介する「リブランディング(Rebranding)」です。本記事では、「ブランド再構築(リブランディング)」の必要性やタイミング、そして具体的な手順について、図表を交えながら解説します。

ストラテジック・デザイナー

T.M.

リブランディングとは具体的に何を変えるのか?

リブランディングとは具体的に何を変えるのか?

リブランディングの定義

リブランディングとは、既存のブランドのアイデンティティを再設計し、新たな市場ニーズや企業の方向性に合わせてブランドを再定義することを指します。

冒頭で、ブランド戦略とは、ブランドのイメージを意図的に設計し管理していく取り組みであると紹介しましたが、ブランド戦略とは、「どのようにしてブランドを育てていくか」という全体の方針を指します。

ブランド戦略の基本要素としては以下の要素が含まれます。

• ブランドの核(コア・アイデンティティ):ミッション・ビジョン・バリュー
• ブランドメッセージ:誰に何を伝えるのか
• ビジュアル・アイデンティティ:ロゴ、色、フォントなど
• 顧客体験:店舗接客、ウェブサイト、広告表現など

具体的に何を変えるのがリブランディングなのか?

「ブランド」と聞くと、有名なロゴやキャッチコピーを思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、本質的な意味でのブランドとは、「消費者の頭の中にある企業や商品・サービスへのイメージ」のことです。ブランドとは、企業が語るものではなく、顧客やステークホルダーが感じるものです。
つまりリブランディングとは、単なるロゴやデザインの変更にとどまらず、以下に挙げる項目のように広範囲に及ぶこともあります。ここでは主に4つの例を挙げ、具体的なアクションを紹介します。

• ミッション・ビジョンの見直し

→リブランディングをする際には、「自社は何のために存在するのか(ミッション)」、「将来どうありたいのか(ビジョン)」といった既存のMVVを改めて見直し、再定義することが重要です。時代の変化や社会課題、顧客ニーズの変化を踏まえた上で、企業の存在意義そのものをアップデートします。かつては「大量生産・大量販売」を使命としていた企業が、サステナビリティや社会貢献を軸としたミッションへ転換するといった例などがあります。

• ターゲット顧客層の再設定

→ブランディングの根幹は「誰に向けてメッセージを届けるのか」です。リブランディングでは、今のターゲットが本当に最適かを再検討し、新しい市場や世代を視野に入れる必要があります。ターゲット顧客層の見直しをすることによって、売上減少や顧客離れの原因を見極め、新たなニーズの発掘・対応や顧客体験(CX)の質向上などが期待されます。中には、従来のBtoBからD2C(個人向け)にビジネス形態を転換することによって、Z世代を中心とした層に向けたブランド戦略を再構築するといった例もあります。

• 商品やサービスの再編

→ブランドイメージに合わなくなった商品や、時代遅れのサービスを見直すことで、提供価値とブランドの一貫性を強化します。高級志向のブランドが廉価なラインを廃止して、より限定的で高付加価値な商品ラインにラインナップを集中させるなどといった例があります。ブランドポジションとの整合性を保ち、選択を集中させることで顧客の信頼構築につながります。

• 社内文化や組織構造の改革

→いくら外側のブランドを整えても、中の人間(社員)の意識や行動が変わらなければ本質的な変化は起こりません。そのため、社内文化や組織の体制も再構築する必要があります。社員一人ひとりがブランドの体現者となるよう、新しい戦略に適した意思決定や評価制度、社内エンゲージメントの向上などがここに含まれます。例えば、「挑戦」を合言葉として掲げる理ブランディングに合わせて、失敗を許容する評価制度に変更し、フラットな組織文化へと転換するといった施策がこれにあたります。

リブランディングが必要になる7つのタイミング

リブランディングが必要になる7つのタイミング

リブランディングは、この中のいずれか、あるいはすべてを再構築、リニューアルするプロセスです。
リブランディングの施策をするタイミングとしては、売上減少であったり、事業継承やM&A、事業統合があった際など外的にも内的にも大きな変化が起こった際が多いですが、要因はそれだけではなく多岐に渡ります。

以下にリブランディングの施策をするタイミングで代表的なものを図で表しました。

No. タイミング 考えられる要因
1 売上や顧客数が減少しているとき ブランドイメージが時代に合っていない可能性がある
2 競合との差別化が難しくなったとき 顧客にとっての「選ぶ理由」が曖昧に
3 ターゲット市場が変化したとき 新しい顧客層に合わせてブランドの再設計が必要
4 M&Aや事業統合があったとき 複数ブランドの統合・整合性が求められる
5 ブランドが炎上・イメージ悪化したとき 信頼回復のための抜本的な見直しが必要
6 創業から長年が経過しているとき 時代や文化に合わない要素が出てきている可能性
7 海外進出など新たな展開を始めるとき グローバルで通用するブランドに刷新

リブランディングの5ステップス

ここからは、実際にブランド再構築を進める際の手順について、5つのステップに分けて解説します。

① 現状分析
  • ・ブランド診断
  • ・顧客・社内アンケート
  • ・競合・市場調査
② ブランド戦略の再定義
  • ・ミッション・ビジョンの見直し
  • ・ターゲット再設定
  • ・提供価値の再構築
③ ビジュアル・メッセージの刷新
  • ・ロゴ・色・フォントの更新
  • ・タグライン・コピーの開発
  • ・ブランドガイドラインの整備
④ 社内浸透
  • ・全社員への共有・研修
  • ・行動指針への反映
  • ・社内施策への組み込み
⑤ 市場への再ローンチ
  • ・プレスリリース・SNS発信
  • ・Webサイト・販促物の更新
  • ・キャンペーン展開
ステップ1:現状分析(ブランド診断)

まず何より先に必要なのは「今のブランドがどう認識されているか」の把握です。

• 顧客アンケート・インタビュー
• SNSやレビューの分析
• 社内メンバーの意識調査
• 競合他社のブランド比較

このフェーズでは「何が機能していて、何が機能していないか」を明確にします。

顧客アンケートやインタビュー、レビューの分析方法がわからない?何を基準にしたらいいかわからない!という方は、以前に紹介したTIPS172の記事も参考にされてください。アンケートやインタビューの方法から指標まで紹介しています。

ステップ2:ブランド戦略の再定義

分析結果をもとに、ブランドの方向性を再設計します。

• ブランドのコア・アイデンティティの明文化
• 顧客セグメントの再設定
• 競合との差別化要素の特定(USP)

この戦略設計が、リブランディングの骨格になります。
競合との差別化要素の特定(USP)とは、商品やサービスが持つ、競合他社にない独自の強みや価値を指します。顧客が自社の商品を選ぶ理由を明確にしたもので、マーケティング戦略においても重要な役割を担います。

ステップ3:ビジュアルとメッセージの刷新

ここでようやく「見た目」の変更に着手します。

• ロゴ、カラー、タイポグラフィの再設計
• キャッチコピーやスローガンの開発
• サイトや広告デザインの刷新

これは表層的に見えますが、ブランドの世界観を体現する重要なステップです。

ステップ4:社内浸透(インナーブランディング)

新しいブランドは、まず社員から。ブランドを理解し、体現する人がいなければ意味がありません。

• ブランドガイドラインの配布
• 社員向けワークショップ
• コミュニケーションスタイルの見直し

インナーブランディングに関しては、TIPS164の記事で詳しく紹介していますので参照ください。

ステップ5:市場への再ローンチ

最後に、外部に向けてブランドを発信します。

• ブランドローンチイベント
• プレスリリース・広報活動
• SNSや広告キャンペーンでの露出
• 顧客対応の刷新(店舗やカスタマーサポートなど)

リブランディングの成功事例と失敗しないためのポイントとは?

リブランディングの成功事例と失敗しないためのポイントとは?

リブランディング事例の紹介

事例1:スターバックス

日本ではあまり知られていませんが、実はスターバックスは、2008年当時、急速なグローバル展開により、ブランド固有の「プレミアム感」や「体験価値」が希薄化、売上が伸び悩んでいました。そこで、スターバックスは創業者のハワード・シュルツ氏を再びCEOに迎え、約600店舗を閉鎖するとともに、「サードプレイス(Third Place)」という理念の再定義を図り、原点へ立ち返ることを目指しました。

同時にバリスタの再教育による品質回復や地域ごとの個性を反映した店舗デザインの見直しも実施。2011年の創業40周年に合わせ、それまで円形で「STARBUCKS COFFEE」の文字が入っていた文字を外し、セイレーン(人魚)ロゴのみにしました。それからも細かいブラッシュアップがなされています。また、ビジネスモデルの転換もしており、モバイルオーダー&ペイの導入、環境・社会課題への取り組みをサステナビリティ戦略として実施し、ブランド価値に落とし込んでいる点も注目です。リユースカップやペーパーストローの導入もその一環です。

こうしたリブランディングやビジネス戦略の見直しにより、スターバックスは、「コーヒーを売る会社」から「人と人をつなぐ場所」へと再ポジショニングに成功し、売上だけでなく顧客ロイヤリティの回復にもつながりました。

スターバックスの例の他にもたくさんの例があります。国内にも数多くのリブランディングの成功事例があり、三菱UFJリサーチ&コンサルティングがまとめているリブランディングに関する資料では、リブランディングの過去の事例を知る上でも、またどういった発想やアイディアによってブランドが生まれ変わったのか?を知る上でも参考になるので、興味のある方はぜひ目を通してみてください。

※三菱UFJリサーチ&コンサルティング:「『伝統ブランド』に学ぶブランディング成功の法則、前編」
※三菱UFJリサーチ&コンサルティング:「『伝統ブランド』に学ぶブランディング成功の法則、後編」

リブランディングで失敗しないための3つのポイント

リブランディングは大きな成果を生む反面、間違えばブランドイメージを損ねてしまう危険性もあります。以下のポイントを意識しましょう。

(1)顧客視点を失わないこと
→社内都合だけで刷新しない。顧客の期待と感情に寄り添う。

(2)段階的な導入
→いきなり大きく変えるのではなく、徐々に移行するケースも効果的。

  

(3)既存顧客とのコミュニケーション →「なぜ変えるのか」を丁寧に伝えることで、誤解を防げます。

最後に

ブランド再構築(リブランディング)は、単なるデザイン変更ではなく、「今あるブランドを未来に向けて進化させる」戦略的な取り組みです。
変化の激しい現代において、ブランドは常に「更新」され続けるもの。だからこそ、定期的なブランド戦略の見直しと、必要に応じた再構築が欠かせないのです。

最後に重要なポイントをもう一度まとめます。

• ブランドは「顧客の中にある印象」
• リブランディングは戦略的に行う
• 適切なタイミングを逃さない
• 成功には顧客視点と社内浸透が鍵
• 変化を恐れず、一貫性を持って実行すること

企業の未来を左右するリブランディング。この記事が、貴社の次の一歩に役立つことを願っています。

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