企業の顔ともいえる「ブランド」。近年では大企業だけでなく、中小企業でも「ブランディング」の重要性が認識され、積極的に取り組む企業が増えています。「ブランド力を高めたい」「お客様に選ばれる企業になりたい」という経営者やマーケティング担当者が増えている中でよく挙がる悩みがあります。
「ブランドが強くなったって、どう判断すればいいの?」
「ブランディングの成果って、どうやって測ればいいの?」
「広告のクリック数や売上と違って、ブランドの価値は数字で見えないのでは?」
結論から言うと、ブランディングにも効果測定は可能です。しかも、それを行うことで「感覚」や「思い込み」ではなく、客観的な指標をもとにブランド施策を改善できるようになります。
本記事では、初心者の方にもわかりやすく「ブランディングの効果測定」や「ブランド価値の算定」について解説します。
ストラテジック・デザイナー
T.M.
ブランド価値とは、企業や商品・サービスが持つ「無形資産」としての価値です。ブランド価値とは、各ブランドに蓄積される「目に見えない価値」を金額に換算したものともいえます。
ブランド価値は、競合他社とは比べられない固有の資産であることから、価格競争に巻き込まれず、顧客に選ばれ続ける理由のひとつにもなります。機能・性能的には同一の製品であったとしても、一方にはブランド価値があるからよく売れる!といった例はたくさんあります。
ブランド価値の算定方法はいくつかありますが、有名なのでがブランドコンサルティング会社インターブランドによるブランド価値評価です。インターブランドは生産設備や施設など有形資産ではなく、目に見えない資産・無形資産も企業価値に貢献している点に注目しました。そこで、財務とマーケティングの観点から、ブランド全体の価値を導く方法を開発しました。現在では、インターブランドによるブランド価値の算定が、企業価値の算定としても重要視されています。
ちなみに、2024年発のインターブランドによる「グローバル・ブランドランキングTOP100」によると、Apple社が12年連続の1位で首位(4889億ドルのブランド価値)をキープする中、日本企業としてはトヨタが自動車業界としては世界トップの6位(728億ドルのブランド価値)、26位にホンダ(267億ドル)と続いています。
企業価値を決める要因として、有形資産から無形資産へとシフトしており、その比率は8:2とも言われています。
世界企業の価値の多くを占めるようになったブランド価値について知りたい方は、インターブランドの資料も合わせて参考にされてはいかがでしょうか。
参考資料:「グローバル・ブランドランキングTOP100(2024)」インターブランド
ブランド価値の算定にはいくつかの方法がありますが、代表的な方法を3つ紹介します。
同じ機能的価値(スペック)や品質を有する商品があっても、ブランドによって価格が高くなる場合、その差額をブランド価値とみなし、ブランド価値として算定する方法です。
原価差額法は以下のような計算式で表されます。
ブランド価値 ー ノンブランド価格 = 単体のブランド価値
単体のブランド価値 × 販売数量 = 総ブランド価値
例えば、ノンブランドの白シャツを3,000円で買ったとします。同等の品質の商品であってもハイブランドの白シャツは15,000円します。このハイブランドのブランド価値は、12,000円となります。
原価差額法はシンプルで直感的であるがゆえに、比較対象商品の選定に主観が入りやすい点には注意が必要でしょう。一時的な価格変動や販促要因についても考慮する必要があることも付け加えておきます。
ブランドによって将来得られる予測利益を、現在価値に換算してブランドの価値を算定する方法です。
ブランドの長期的な収益性を考慮したファイナンス手法で、基本的な計算方法は以下の通りです。
ブランドが生み出す将来のキャッシュフロー ÷ 割引率
予想される利益が年間5億円のブランドがあったとします。利益の継続期間が10年だとした場合、割引率が10%だと見積もると、ブランド価値は30億7,228万円となります。
将来収益割引法(DCF法)の特徴としては、収益性と時間価値を反映した評価であるということ、また投資家・財務担当者には説得力のある数値を導き出せる点が挙げられます。ただし、あくまで将来予測を前提としているため、売上、利益率、ブランド寄与度合いに大きく左右される点は留意すべきでしょう。
ちなみにインターブランドや国際的ブランド評価期間もこの方法を活用しています。
ブランドの数値化が難しい信頼や好意、愛着などをサーベイやインタビューを通じて、評価する手法です。ブランドが顧客にどれほど心理的、情緒的価値をもたらしているのか?を測定します。
評価項目例としては、後ほど紹介する効果測定方法である、NPSやブランドの想起率・認知率・再購入意向、また「信頼度」、「親しみやすさ」、「独自性」などのスコアで計ります。
顧客調査ベースの定性評価の特徴としては、完全な数値化が難しい点が挙げられます。客観性に限界がある上に、設問設計や分析スキルによって精度に差が出てしまうことも課題です。顧客の主観や感情を定性的に把握できる点を踏まえて、先に紹介した定量評価方法(原価差額法や将来収益割引法)と合わせて活用することで評価の補完ができますので、ぜひ3つを組み合わせて活用されることをおすすめします。
ブランディングが重要であることは広く知られるようになりましたが、それに伴って「その効果はどうだったのか?」を測るニーズも高まっています。
まず、ブランディングの施策には少なくないコストがかかります。広告、PR、デザイン、人材育成などかかるコストは多岐に渡りますが、成果基準が曖昧なままでは、経営層やマネジメント陣営にとっては本腰を入れてのブランディングに踏み切れないケースもあります。
「ブランディングにいくら使って、どのような成果が出たのか?」といった投資対効果(ROI)を数値で示すなど、可視化することで、経営層や決裁権を有する部署を動かす一つの指標として使えるようになります。
ブランディングとは、「デザイン」や「広告」などよく目に見える部分ばかりで評価されがちですが、本質的には「未来への投資」です。したがって、他の経営施策と同様に「効果測定」を行わないと、成果が判断できないと経営・マネジメント陣側も予算やリソースの確保に前向きになれないでしょう。こうしたケースなどから、ブランディングを客観的事実に則って測定することが試みられるようになりました。
かつては、「お客様の反応が良くなった気がする」、「なんとなくブランドイメージが良くなった」といったように、判断基準が曖昧なまま、感覚的に判断されるケースが少なくありませんでした。しかし、現代の経営では、「定量的」、「定性的」なデータに基づく意思決定が経営上、また投資理由としても求められます。その意味でも、ブランディング施策に対する「効果測定」は無視できないファクターなのです。
ブランディングの効果を測定するにあたり、注意すべき点は、「客観的な視点」です。
「デザインを刷新した」「ブランドメッセージを変えた」だけでは、実際に顧客の印象が良くなったかどうかはわかりません。担当者の主観だけで判断するのは危険なのです。
たとえば、リブランディングを行った結果、
認知度は上がったか?
好意度はどう変化したか?
顧客の購入意欲に影響はあったか?
こうしたポイントを把握し、次の施策につなげるために効果測定が必要になります。
サーベイ(調査)結果やブランド価値のデータを共有することで、社員同士でブランドの現状や課題を共有でき、ブランディングへの意識が高まります。
効果測定によって、どの層にブランドが届いていないのか、どのイメージが伝わっていないのかが明確になり、戦略の軌道修正が可能になります。
数値やグラフ、ブランド価値としての算定結果があれば、「なぜブランディングが必要なのか?」を経営層や取引先にも説得力を持って説明できます。
では、ブランディングの成果はどのように測るのでしょうか?ここでは、よく使われる代表的な指標を紹介します。
まず重要なのは、「何のためのブランディングか?」という目的設定です。
ブランディングの効果測定において、KPI(重要業績評価指標)とKGI(重要目標達成指標)は、代表的な指標としてよく知られています。ブランディングにおけるKGIとKPIの設定例を以下の図にまとめてみましたので、まずご覧ください。
KGI(重要目標達成指標) | KPI(重要業績評価指標) |
---|---|
ブランド認知度の向上 |
・広告のリーチ数 ・Webサイト訪問者数 ・SNSフォロワー数の増加率 |
ブランド好意度(イメージ)の向上 |
・ブランドに対するポジティブなSNS言及率 ・NPS(ネット・プロモーター・スコア) |
ブランドロイヤルティの向上 |
・リピーター率 ・会員継続率 ・メルマガ開封率 |
売上や利益などのビジネス成果の向上 |
・ブランド製品の売上高 ・平均購買単価 ・ブランド指名買い率 |
ブランドエクイティ(ブランド資産)の向上 |
・ブランド認知スコア(調査による) ・ブランド連想のスコア ・消費者ブランド評価点 |
・KGIとは簡単に言えば、最終的な成果指標
・KPIはKGIの達成に向けた過程における細切れの目標であったり具体的な数値目標
という理解でいいでしょう。
ブランディングをする上で、「何のためにブランディングをするのか?」というKGIの設定には以下のような目的が考えられます。
認知度の向上
好感度の向上
採用力の強化
価格競争力の脱却
社員のエンゲージメント向上
目的によって、測定すべき指標(KPI)が変わってきます。
KGIなくしてKPIはありません。しっかりとしたKGIを設定した上で、達成までの道程に必要なKPIを設定していきます。
以下にKPIの測定には大きく分けて2つの方法があることも知っておく必要があります。
(例)
ウェブサイトのアクセス数
SNSでの言及数
認知度スコア(知っている人の割合)
サーベイ結果のスコア
ブランド想起率(最初に思い浮かべるブランド)
(例)
お客様の声(自由回答)
インタビュー調査
社内ヒアリング
SNS上のコメント分析
「そのブランドを知っているかどうか」を測る指標です。
自発的認知(Top of Mind):質問せずに思い浮かぶブランド
助成認知(Aided Recall):ブランド名を見て「知っている」と答える割合
認知度の高いブランドほど、購入候補として選ばれやすくなります。
認知しているブランドの中で、「どれくらい好感を持っているか」を測定します。
「このブランドが好きだと思うか?」
「このブランドを信頼できると思うか?」
このような質問を通じて、消費者の心理的な反応を数値化します。
あるカテゴリー(例:スポーツドリンク)において、消費者が最初に思い浮かべるブランドが何かを測る指標です。
「○○といえば?」といった質問に対する回答が、強いブランドほど先に出てきます。
「そのブランドを他人にすすめたいか?」という観点から、顧客のロイヤルティを測る指標です。
「0〜10点で評価してください」
9〜10点:推奨者(Promoters)
7〜8点:中立者(Passives)
0〜6点:批判者(Detractors)
NPS = 推奨者の割合 − 批判者の割合
ブランドの指標を測るために欠かせないのがサーベイ(調査)です。
サーベイ(Survey)とは、アンケート形式の調査方法です。オンラインでも紙でも実施でき、消費者や社員、取引先の意識やイメージを可視化するのに役立つだけでなく、顧客視点でブランドの現状や変化を把握するのにとても有効です。
特にSNSを代表とするオンラインでの調査は低コストでスピーディーに実施できるため、多くの企業で活用されています。
目的を明確にする:何を知りたいのか?
対象を絞る:既存顧客?見込み顧客?
質問項目を設計する:認知・好意・信頼・利用意向など
例:
Q. このブランドを知っていますか?(はい/いいえ)
Q. このブランドにどのような印象を持っていますか?(選択式)
Q. 他人にこのブランドをすすめたいと思いますか?(10点満点)
また、目的に応じて、以下のような設問を設定します。
【消費者向けサーベイ】
このブランドを知っていますか?
このブランドにどのようなイメージを持っていますか?
他社ブランドと比べて、魅力的だと思いますか?
商品やサービスを人に勧めたいと思いますか?
【社員向けサーベイ】
自社ブランドに誇りを持っていますか?
ブランドの理念を理解していますか?
ブランドが日々の仕事に活かされていますか?
サーベイの結果を単なる数字の羅列で終わらせず、「改善のヒント」に変えることが重要です。
時系列での変化をみる
他社比較を行う
属性ごとの違いを分析する(年代・地域など)
サーベイの結果は、そのままグラフ化・レポート化して「可視化」するのがポイントです。また、定期的にサーベイを繰り返すことで、ブランディングの推移や改善点を追うことができます。
いかがでしたでしょうか。
ブランディングは「一度やったら終わり」ではなく、「育てるもの」です。そして、ブランドの成長度合いを測るのが、今回紹介した効果測定方法やサーベイです。
ブランド価値の算定によって、目に見えにくかった「ブランド力(無形資産)」を、社内外のステークホルダーに客観的なファクトとして示すことが可能になります。
小さく始めて定期的に確認し、必要に応じて改善する。このPDCAサイクルを回していくことで、あなたのブランドは確実に強くなっていくことでしょう。
本記事で紹介した通り、効果測定の方法はいくつもありますが、繰り返しになりますが、重要な指標となるのは、顧客視点をはじめとする、客観的な視点であることを強調しておきます。
ぜひ、ブランディングで効果測定という視点を取り入れて、ブランドの成長を加速させてみてはいかがでしょうか。
今日もあなたに気づきと発見がありますように