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  • Vol.170
  • DESIGN
  • 2025.5.23

他のデザイナーとはまったく違う?ストラテジックデザイナーの役割と実践について

近年、ビジネスの現場では「デザイン」という言葉の意味が大きく変わってきています。かつてはロゴやパンフレットなど、いわゆるVIを※1※1Visual Identityの略。企業やブランドの価値やコンセプトを視覚的に表現するデザイン要素の総称で、ロゴ、カラー、フォント、グラフィックパターンなどが含まれます。整えるものとしてのデザインが中心でしたが、ビジネス課題を解決し、経営戦略に深く関与する「戦略的なデザイン=ストラテジックデザイン」が注目されています。
ストラテジックデザインとは何か?については前回の記事にて紹介していますので、ぜひそちらも合わせて参照ください。

経営課題や戦略に深く関与するデザインを担う、新たな職種が「ストラテジックデザイナー(戦略デザイナー)」です。単なるクリエイターではなく、企業の未来を描き、変革を導くキーパーソンとして期待されています。
本記事では、初心者の方にもわかりやすく、「ストラテジックデザイナー」とは何か、そしてストラテジックデザインの実践方法について紹介します。

※1 Visual Identityの略。企業やブランドの価値やコンセプトを視覚的に表現するデザイン要素の総称で、ロゴ、カラー、フォント、グラフィックパターンなどが含まれます。

ストラテジック・デザイナー

T.M.

ストラテジックデザイナーとは?他のデザイナーとの違いや役割について

ストラテジックデザイナーとは?他のデザイナーとの違いや役割について

ストラテジックデザイナーの役割と主な業務

「ストラテジックデザイナー(戦略デザイナー)」とは、デザイン思考をベースに、経営や事業開発などの戦略レベルで課題解決を行う人材のことです。ロゴや広告だけでなく、サービスの仕組みやブランドの在り方、企業の価値そのものを「デザイン」する役割を担っています。

ストラテジックデザイナーには以下のような業務が含まれます。

・市場やユーザーのリサーチ
・経営者やステークホルダーとのビジョン設計
・サービス・プロダクトの戦略立案
・組織変革の支援
・ブランド価値の再構築

市場やユーザーのリサーチ

ユーザーのニーズや行動、価値観はもとより、市場の動向やトレンド等を把握し、戦略やデザインの出発点を定めるフェーズ。手法としてはユーザーインタビューやエスノグラフィーといった観察調査、サーベイ(アンケート)の実施による行動データの分析、またトレンド分析や競合分析、ペルソナ設計からカスタマージャーニーの作成といったアプローチが取られます。重要なのは、表面的なニーズに捉われすぎずに、潜在的な課題や動機に迫った仮説を検討することです。

経営者やステークホルダーとのビジョン設計

企業の中長期的な目標や方向性を具体的かつ共有可能な形にするフェーズです。ワークショップやファシリテーションを通じた競争型のビジョン策定、社内外のインサイトを汲んだシナリオプランニング、ストーリーテリングによるビジョンの納得・浸透といったアプローチが取られます。経営層と現場、ユーザーをつなぐ「ラポール(橋)」となるビジョンの設計が求められます。

サービス・プロダクトの戦略立案

ユーザー価値とビジネス価値を両立するプロダクトやサービスの企画・設計を行うフェーズです。MVP設計※2※2MVPとはMinimum Viable Productの略で、最小限の機能を有する製品という意味です。MVP設計とは顧客に価値を提供できる最小限の製品、つまり顧客が抱える課題を解決できる最小限の製品・サービスの状態を設計することを指します。やロードマップ策案、UX設計をはじめとする戦略立案から、ステークホルダー間の意思決定をサポートするアプローチが取られます。ここで重要なのが実現可能性、市場性と独自性をバランスさせることです。

組織変革の支援

デザイン思考やアジャイル開発※3※3反復的な短いサイクルでソフト開発を進め、ユーザーニーズの変化に柔軟に対応する開発手法を指します。短期間で開発とリリースを行うことで、顧客からのフィードバックを早期に取り入れ、改良を加えられることからタイムリーにユーザーニーズやウォントに適う良質なプロダクトを提供しやすいのが特長です。などを通じて、柔軟で創造的な組織文化を育むことを目的とした支援を行います。手法としては、サーベイ(アンケート)や社員インタビューによる組織課題の抽出、働き方や意思決定プロセスの再設計などが挙げられ、新しい価値創出に強い組織を内側から再構築していくことで、持続可能性の高い競争力のある組織にしていく支援を行います。

ブランド価値の再構築

ブランド理念や存在意義を再定義し、社会やユーザーとの新しい関係性を築くのを目的とした施策を実施するフェーズです。ブランドパーソナリティの再設計、トンマナ(トーン&マナー)の整理やUX(ユーザー体験)に基づくブランド体験の一貫性の設計などブランディング(リブランディング)に通じるアプローチが挙げられます。

特にストラテジックデザイナーとして特筆すべきアプローチとしては、VIに連動した戦略ストーリープランのデザインです。単なる見た目の刷新ではなく、ユーザーに「選ばれる理由」の設計・構築に大きな価値があります。

ストラテジックデザイナーは、ビジネス、テクノロジー、人間中心設計(HCD)の交差点に立ち、常にユーザーとサプライヤー(経営陣含む)の両視点でもって複雑な課題を解き明かしていく職能です。いわば、「未来を描き、組織を動かすデザイン」の専門家ともいえるでしょう。

※2 MVPとはMinimum Viable Productの略で、最小限の機能を有する製品という意味です。MVP設計とは顧客に価値を提供できる最小限の製品、つまり顧客が抱える課題を解決できる最小限の製品・サービスの状態を設計することを指します。

※3 反復的な短いサイクルでソフト開発を進め、ユーザーニーズの変化に柔軟に対応する開発手法を指します。短期間で開発とリリースを行うことで、顧客からのフィードバックを早期に取り入れ、改良を加えられることからタイムリーにユーザーニーズやウォントに適う良質なプロダクトを提供しやすいのが特長です。

他のデザイナーとの違い

種類 目的 活動範囲
グラフィックデザイナー 視覚的に魅せる 広告・印刷物など
UI/UXデザイナー 使いやすくする アプリ・Webなど
ストラテジックデザイナー 経営課題を解決する ビジネス全体

つまり、ストラテジックデザイナーは、サプライヤー側とユーザー側の両方の視点でビジネスの課題を解決することに照準を合わせ、ビジュアル表現のその先にある「経営や社会の変化」までデザインしていく存在なのです。

ストラテジックデザインの実践方法5ステップ

ストラテジックデザインの実践方法5ステップ

ここからは、実際にストラテジックデザイナーがどのように仕事を進めるのか、その実践的なプロセスを5つのステップで紹介します。

ストラテジックデザインとは何か?詳しく知りたい方はこちらの記事も合わせてご覧ください。

ステップ1:現状の分析と課題の再定義

戦略デザインの出発点は、「課題の再発見」です。例えば売上不振という表面的な課題があったとしても、実は真の課題は「顧客のニーズを正しく把握できていない」ことである場合もあります。まずはヒアリングや客観的なデータ分析を通して、根本的な問題を洗い出します。

ステップ2:ビジョンの設定とゴールの明確化

次に、どこを目指すのか(ビジョンや目標)を設定します。たとえば、「社会貢献や地域活性化を後押しする企業としての地位を確立する」「環境に優しいプロダクトブランドとして認知される」など、明確かつ共感を呼ぶビジョンを描きます。経営陣だけでなく、どのステークホルダーにとっても理解しやすい内容であることが理想です。

ステップ3:アイデア創出(Ideation)

ここでは、デザイン思考のプロセスを活用してアイデアを大量に出します。ブレインストーミング、ペルソナ作成、カスタマージャーニーの設計など、ユーザー視点に立って新たな解決策を探るフェーズとなります。

ステップ4:プロトタイピングとテスト

実現可能な範囲でアイデアを具現化します。たとえば新しいサービスの体験版や、ロゴ・パッケージのモックアップを作成し、実際のユーザーに試してもらいます。ユーザーからのフィードバックをもとに、改善点や新たな課題を抽出し、製品やサービスのブラッシュアップにつなげていく道筋を立てていくフェーズです。

ステップ5:実装と改善

PDCAの段階です。効果を検証しながら、より良い形に改善し、戦略に統合していきます。このサイクルを継続的に回すことで、組織としての「戦略的デザイン力」が高まっていくのです。

ストラテジックデザイナーに必要なスキルとは?

では、ストラテジックデザイナーとして活躍するにはどのようなスキルが必要なのでしょうか。
スキルのカテゴリーと具体的なスキル(技能)について表にしてみました。

スキルカテゴリー 具体的なカテゴリー
ビジネス理解力 事業や社会課題の本質的解決・価値創造
デザイン思考 仮説設定、プロトタイピング、共感力
ファシリテーション力 ワークショップの企画運営、合意形成
ビジュアル表現力 コンセプトビジュアル、スライド作成
コミュニケーション力 経営層・現場両方との対話能力

ご覧の通り、ストラテジックデザイナーは様々なカテゴリーを縦横するスキルが求められます。
デザインのスキルというよりは、思考であったり、ステークホルダーや経営陣の間でコミュニケーションを取り仕切るファシリテーション力などが大きく求められる点は注目です。

これらのスキルは一朝一夕で身につくものではありませんが、実践を通じて少しずつ育てていくことができます。

最後に

いかがでしたでしょうか。
「ストラテジックデザイナー」や「ストラテジックデザイン」は、決して一部の大企業やデザイン業界だけのものではありません。今後の社会や経済の変化に柔軟に対応していくために、あらゆる業種・規模の企業にとって必要な視点となっています。

今この瞬間にも、あなたの会社やチームが直面している課題にこそ、デザインの力が活かせるかもしれません。まずは小さな一歩から、ストラテジックデザイナーの視点や役割を取り組んでみてはいかがでしょうか。

 

参考文献・資料:

・『Strategic Design: Creative Directions for a Changing World (English Edition)』André Coutinho他著

・『The Strategic Designer: Tools & Technique for Managing the Design Process(English Edition)』David Holston

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