ブランドエクスペリエンスとは何か
- 会社の変化を社会へ伝わる体験に変える
この記事でわかること
- ブランドエクスペリエンスとは何か
- UX/CXとの違いと、企業らしさが体験される接点の考え方
- 事業承継後に起きやすい3つの認識ギャップ
- 言葉と振る舞いでブランド体験を設計する方法
- BOELが考える、BXを経営の意思決定へ接続する視点
INDEX
なぜ会社の現在地は、社会に伝わらないのか
ブランドエクスペリエンスとは何か
事業承継後、なぜ認識のズレが広がるのか
選ばれる理由は、どこで体験されるのか
BXは、言葉と振る舞いでどう設計するのか
何を変え、何を変えてはいけないのか
ブランドエクスペリエンスは、経営の意思決定そのものである


なぜ会社の現在地は、社会に伝わらないのか
接点の分断を、ブランド体験の課題として捉え直す
事業承継から時間が経ち、新しい事業や人材、顧客との関係が生まれている。社内では確かに会社が変わったと感じている。それにもかかわらず、採用候補者や顧客、地域社会からは、昔の会社像のまま見られている。こうした違和感は、多くの中小企業や地域企業で起きている。
問題は、見た目が古いことだけではない。営業資料、採用サイト、社員の説明、顧客対応、SNS、店舗やオフィスでの振る舞いが、それぞれ別の前提で動いていることにある。企業の実態が変わっても、接点ごとの言葉や態度が変わらなければ、社会が受け取る印象は更新されない。
ブランドエクスペリエンスは、この分断を整えるための視点である。企業が何者であり、どの未来へ向かい、誰にどの価値を届けるのか。その現在地を、接点ごとに矛盾なく体験できる状態をつくることが、ブランドを社会へつなぎ直す第一歩になる。


ブランドエクスペリエンスとは何か
UX/CXではなく、企業らしさが体験される接点全体を設計する
UXは、ユーザーが特定のプロダクトやサービスを利用するときの体験に焦点を当てる。CXは、購入前から利用後までの顧客体験を扱う。一方で、ブランドエクスペリエンス(BX)は、顧客だけでなく、社員、採用候補者、取引先、地域社会が企業に触れるすべての接点を対象にする。
たとえば、同じ会社が「挑戦する企業」と語っていても、採用面接では保守的な評価基準を使い、営業現場では価格だけで勝負し、Webサイトでは旧来の事業説明だけを掲載しているなら、ブランド体験は一貫しない。人は企業の言葉だけでなく、実際の振る舞いから会社像を判断する。
つまりBXは、企業の意志が接点でどう体験されるかを設計する領域である。ブランドを「語るもの」ではなく「体験されるもの」と捉え直すことで、ロゴやサイト刷新の手前にある、組織の判断と行動の問題が見えてくる。


事業承継後、なぜ認識のズレが広がるのか
「自社内」「時間軸」「意図と表現」、現在地を覆い隠す3つのズレ
事業承継や新規事業の開始後に起きやすいズレは、大きく三つある。第一に、事業実態と市場認識のズレである。会社は新しい価値を提供しているのに、顧客は昔のカテゴリーでしか理解していない。第二に、経営の意図と社内の言葉のズレである。経営者は未来を語っているが、社員は従来の説明を続けている。第三に、接点ごとの振る舞いのズレである。Web、営業、採用、広報がそれぞれ別の会社像を伝えてしまう。
このズレを放置すると、価格競争に巻き込まれる、採用で魅力が伝わらない、既存顧客に新しい価値を理解してもらえないといった症状が出る。いずれも施策不足ではなく、会社の変化が社会に翻訳されていない状態である。
BXの設計では、まずこのズレを見える化する。どの接点で、誰が、どの会社像を受け取っているのかを確認し、変化した会社の現在地を一つの言葉と体験に束ね直す。


選ばれる理由は、どこで体験されるのか
機能の外側にある時間と関係を設計する
同じ課題に向き合ったPROJECTSの事例がある。TOMAMU the WEDDINGでは、星野リゾート トマムのウェディングを、単なる挙式プランではなく「家族旅ウェディング」という体験価値として再定義した。美しいロケーションを見せるだけではなく、旅の中で家族の関係が深まる時間をブランドの中心に置き、検討段階から現地体験まで一貫した接点を設計している。
この事例が示すのは、ブランド体験は機能説明の外側にあるということだ。顧客が選ぶ理由は、価格やスペックだけでなく、「どんな時間を過ごせるか」「誰とどのような記憶をつくれるか」という経験の中で形成される。→ [事例を読む]
企業の現在地を伝えるときも同じである。何を提供しているかだけでなく、それに触れた人が何を感じ、どう判断できるようになるかまで設計することで、会社は社会から新しい意味で理解される。


BXは、言葉と振る舞いでどう設計するのか
約束・行動・接点をひとつの判断軸へつなぐ
ブランドエクスペリエンスを設計するには、まず企業が社会に対して何を約束するのかを明らかにする必要がある。これはキャッチコピーを決めることではない。顧客に対して、社員に対して、地域や社会に対して、自社がどのような態度で関わるのかを言語化することである。
次に、その約束を行動へ落とす。営業の提案、採用面接、カスタマーサポート、プロダクトの仕様、Webサイトの導線。すべての接点で同じ判断軸が参照されていなければ、体験は分断される。重要なのは、全接点を同じ表現にすることではなく、異なる接点でも同じ企業らしさが感じられる状態をつくることだ。
そのためには、ブランドの言葉を運用ルールに変える必要がある。何を言うか、何を言わないか。どの顧客に向き合うか。どの期待には応え、どの期待には応えないか。BXは、こうした小さな判断の積み重ねで形づくられる。


何を変え、何を変えてはいけないのか
変化と継承を分ける問いが、ブランド体験の軸になる
ブランドを更新しようとすると、すべてを新しくしたくなる。しかし、企業には変えるべきものと、変えてはいけないものがある。事業承継やリブランディングで重要なのは、この二つを丁寧に分けることだ。
確認すべき問いは四つある。第一に、創業以来変わらず顧客に評価されてきた価値は何か。第二に、現在の事業実態と合わなくなった言葉や接点は何か。第三に、これからの社会に対して新しく約束すべきことは何か。第四に、その約束を社員が日々の判断で使える状態になっているか。
変えるものを決めるだけでは、ブランドは根を失う。守るものを決めるだけでは、社会との関係は更新されない。BXは、継承と変化の両方を扱う設計であり、BOELが重視するINTEGRITYの視点そのものである。


ブランドエクスペリエンスは、経営の意思決定そのものである
Design the Decisionとして、会社の現在地を社会へ実装する
BOELは、ブランドエクスペリエンスを接点の改善だけだとは考えていない。BXは、企業が何を選び、何を選ばないのかを、社会が体験できるかたちへ変換する経営の意思決定である。
会社の現在地が伝わらないとき、必要なのは強いコピーや新しいビジュアルだけではない。経営、組織、体験、表現をつなぎ直し、企業の意志が接点ごとの判断に現れる状態をつくることである。Design the Decisionとは、まさにそのための方法である。
ブランドは語られる前に、体験されている。だからこそ、会社の変化を社会へ伝えたいときは、まず自社がどの接点で、どのような判断をしているのかを見直す必要がある。BXは、会社の現在地を社会につなぎ直すための、もっとも実践的なブランド戦略である。
参考: BOEL PROJECTS「TOMAMU the WEDDING」 / BOEL What We Do「Product & Service Branding」 / HBR “Understanding Customer Experience”
著者について
事業・組織・顧客接点を横断して、企業の現在地を言葉と体験へ接続するストラテジック・デザイナー。







