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Vol.200

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ストラテジック・デザイナー

T.M

デザイン経営とは|中小企業・スタートアップの実践ステップ

#経営戦略#企業ブランディング#インナーブランディング#ブランド・パーセプション#ビジョンデザイン#地域ブランディング
Last update : 2026.4.27
Posted : 2026.4.27
「デザイン経営」という言葉は耳にするけれど、自社で何から始めればいいのか分からない——。多くの中小企業・スタートアップ経営者が抱えるこの悩みに対して、BOELが伴走してきた実例と「成果設計型リブランディング」の考え方をもとに、限られたリソースで成果につなげる実践ステップを解説します。採用難・価格競争・差別化といった経営課題を、デザインの力でどう突破するかを具体的に紐解きます。
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「デザイン経営」という言葉を、経営会議やビジネス書で目にする機会が増えました。経済産業省が「デザイン経営宣言」を発表してから数年、大企業の成功事例が語られる一方で、多くの中小企業・スタートアップ経営者は「言葉は知っているが、自社でどう取り入れればいいのか分からない」という段階で足踏みしているのではないでしょうか。

ロゴを整える、ホームページをきれいにする——もちろんそれも意味はあります。しかし、デザイン経営が本来持っている力は、そこにとどまりません。本記事では、BOELが中小企業・スタートアップの経営者と伴走してきた経験と「成果設計型リブランディング」の考え方をもとに、限られたリソースでも確かな成果につながる実践ステップを解説します。

デザインを「コスト」から「経営資源」へ転換したいすべての経営者に、明日から動き出せる手がかりをお届けします。

「デザイン経営」が中小企業・スタートアップに必要とされる理由

大企業のデザイン経営事例を読むと、「うちのような規模では縁遠い話だ」と感じる経営者は少なくありません。しかし実際には、中小企業・スタートアップほどデザイン経営の恩恵を受けやすい立場にあります。理由は単純で、小さく始められる、意思決定が速い、変化の効果が組織全体に波及しやすい——この3つが揃っているからです。

採用難・価格競争・差別化——共通する経営課題の正体

中小企業・スタートアップ経営者の多くが直面する経営課題は、業種が違っていても驚くほど似通っています。人が採れない、価格でしか勝負できない、似たような競合に埋もれる。これらはすべて「自社の価値が、相手に正しく伝わっていない」という一点に収束します。

製品そのものの品質、技術力、サービスの丁寧さ。中小企業・スタートアップの現場には誇れるものがたくさんあるはずです。しかしその価値が、顧客にも、求職者にも、取引先にも、言葉とビジュアルの両面で届いていない。この断絶を埋めるのが、デザイン経営が担うべき役割です。

「見た目の整理」ではなく「意思決定の土台」としてのデザイン

デザイン経営とは、デザイナーに外注することではありません。経営者自身が「自社は何者で、誰に、どんな価値を、どう届けるのか」を言語化・可視化し、それを組織のあらゆる意思決定の土台として使っていく経営手法です。

新製品の仕様を決めるとき、採用ページの文言を書くとき、営業資料を作るとき、値上げを判断するとき——あらゆる場面で「自社らしさ」の基準が共有されていれば、判断のスピードも質も変わります。中小企業・スタートアップの強みである機動力を、デザインはさらに加速させる装置になり得るのです。

デザイン経営とは何か——3つの誤解をほどく

「デザイン経営」という言葉が広まる一方で、定義の曖昧さから誤解も生まれています。中小企業・スタートアップ経営者がつまずきやすい3つの誤解を、先に整理しておきましょう。

誤解①「デザイン経営=ロゴやウェブサイトをきれいにすること」

最も多い誤解がこれです。ロゴもウェブサイトも大切な接点ですが、それは氷山の一角でしかありません。本来のデザイン経営は、企業のミッション・ビジョン・バリュー、製品やサービスの体験、採用のあり方、社内コミュニケーションまで含めて「一貫した価値の設計」を行うものです。

表層だけを整えても、その下にあるべき思想が不在では、顧客にも社員にも響かない「きれいな空洞」になってしまいます。

誤解②「デザイン経営はお金と時間に余裕がある大企業のもの」

むしろ逆で、経営資源が限られているからこそ、デザイン経営の威力が発揮されます。人手も広告予算も潤沢ではない中小企業・スタートアップにとって、「自社らしさを正しく伝える」ことは、少ないタッチポイントで最大の印象を残すための戦略そのものです。

大企業のように大量出稿で認知を取りにいけない以上、一つひとつの接点の質で勝負するしかありません。これは、デザイン経営の得意領域です。

誤解③「デザイン経営は成果が見えない曖昧な投資だ」

「効果が数値で測れないから後回し」——これもよく聞く声です。確かに、ブランドイメージのような定性的な効果は短期では測りにくい。しかし、採用応募数、問い合わせ単価、顧客単価、リピート率、離職率といった経営指標は、デザイン経営の成否と連動します。

重要なのは、始める前に「何をどう測るか」を設計しておくこと。後述する「成果設計型リブランディング」は、まさにこの課題に応える考え方です。

中小企業・スタートアップが陥りやすい「デザイン投資の失敗パターン」

BOELにご相談いただく中小企業・スタートアップの経営者から、「以前デザインに投資したが、思った成果が出なかった」という声をよく伺います。失敗にはいくつかの共通パターンがあり、これを知っておくだけでも投資判断の精度は大きく上がります。

失敗パターン①:目的が「ロゴ刷新」で止まっている

「創業15年目だからロゴを新しくしたい」——きっかけとしては自然ですが、ロゴ刷新だけを目的にすると、出来上がった新ロゴが何のためにあるのかが社内で共有されず、営業資料もウェブサイトも旧来のままというチグハグな状態になりがちです。

本来問うべきは、「なぜ今ロゴを変えるのか」「新しいロゴが象徴する自社像は何か」「それは社員と顧客にどう伝え、どんな行動変容を促すのか」。ロゴは結果であって、目的ではありません。

失敗パターン②:経営者が「丸投げ」してしまう

忙しい経営者ほど、デザインパートナーに全権委任しがちです。しかし、企業の思想を映し出すのがデザイン経営である以上、経営者本人が最も言語化すべき主体です。外部のデザイナーは、経営者の頭の中にあるものを引き出し、整え、形にするパートナーであって、経営者の代わりに思想を生み出せる存在ではありません。

丸投げの結果、「きれいだが、自社らしくない」成果物が出来上がり、愛着も運用も続かないという事態を招きます。

失敗パターン③:社内への「翻訳」が行われていない

新しいブランドガイドラインができても、それが現場の社員の日々の判断に落ちてこなければ、絵に描いた餅です。営業担当者が顧客に話す言葉、採用担当者が候補者に伝える自社像、バックオフィスの社内文書のトーン——あらゆる現場に「翻訳」されて初めて、デザイン経営は機能し始めます。

中小企業・スタートアップは組織が小さい分、この浸透を素早く行える優位性があります。しかし、翻訳の工程を意図的に設計しなければ、どんなに優れたブランド設計も、経営者の机の引き出しで眠ることになります。

BOELが実践する「成果設計型リブランディング」という答え

前述の失敗パターンを踏まえ、BOELが中小企業・スタートアップ経営者と伴走する際に大切にしているのが、「成果設計型リブランディング」という考え方です。従来のブランディングが「らしさの表現」に重きを置いていたのに対し、成果設計型リブランディングは、「経営目標にどうつなげるか」を起点にブランドを設計します。

経営目標を起点にブランドを設計するという発想

例えば「3年後に採用エントリー数を2倍にしたい」という経営目標があれば、ブランドは「誰にどう見られれば、その採用目標が実現するのか」から逆算して設計されます。「売上を安定させるために、既存顧客のリピート率を上げたい」なら、既存顧客が自社をどう認識し直すべきかがブランド設計の出発点になります。

「きれいに見せる」ではなく、「その結果、何が変わっていればいいのか」を最初に言語化する。これが成果設計型リブランディングの核心です。

測定可能な経営指標と、定性的な体験価値の両立

BOELのアプローチ

BOELではプロジェクト開始時に、経営者と一緒に「3つの指標群」を定義します。ひとつは採用数・問い合わせ数・リピート率などの定量的な経営指標。もうひとつは「顧客が自社を説明するときの言葉」「社員が採用面接で語る自社像」など、言葉の変化として現れる定性指標。最後に、ブランド資産としての「ビジュアル・トーン・体験の一貫性」の指標です。

この3層を同時に設計することで、ブランディングが「気分の問題」ではなく、経営の一環として評価・改善できる取り組みへと変わります。

中小企業・スタートアップだからこそ機能する理由

成果設計型リブランディングは、皮肉にも大企業より中小企業・スタートアップでこそ機能しやすい手法です。意思決定階層が少なく、経営者の意志がそのまま現場に届く。変化の成果が売上や採用数という形で短期間で可視化される。組織を横断してブランドを浸透させる「翻訳」の距離が短い——これらの構造的優位性が、デザイン経営の効果を増幅させます。

中小企業・スタートアップのためのデザイン経営 実践5ステップ

ここからは、中小企業・スタートアップの経営者が明日から着手できるデザイン経営の5ステップを紹介します。外部パートナーと組む前に、まず社内で走らせられる内容から始めます。

STEP 1:経営目標から「ブランドが果たすべき役割」を定義する

最初にやるべきことは、綺麗な言葉探しではありません。3年後にどんな会社にしたいか、その実現を阻んでいるボトルネックは何か、そのうちブランドが解決できるものはどれか——この順で整理します。採用なのか、価格の底上げなのか、新規事業の受容性なのか。ブランドに背負わせる役割を1〜2個に絞ることが、限られたリソースで成果を出す鍵です。

STEP 2:「自社らしさ」を経営者の言葉で言語化する

フレームワークやワークショップは後回しでも構いません。まず経営者自身が、自社の創業の動機、これまでの意思決定で譲らなかったこと、顧客から言われて嬉しかった言葉、これだけは採用したくない人物像——こうした生の言葉を書き出します。これらが、どんな立派な理念文よりも、自社らしさの核になります。

STEP 3:顧客と社員へのヒアリングで「ズレ」を発見する

経営者の中にある自社像と、顧客・社員が持っている自社像には、必ずズレがあります。このズレを発見することが、ブランド設計の最も価値ある工程です。顧客には「なぜ弊社を選んでくれたか」「他社とどう違うと感じているか」を、社員には「入社前後のギャップ」「外の友人にうちをどう説明しているか」を聞きます。ここで得られる生の声は、どんな競合調査よりも雄弁です。

STEP 4:タッチポイントの優先順位をつけて、順番に整える

中小企業・スタートアップでは、すべてのタッチポイントを一度に刷新するのは現実的ではありません。ブランドの役割(STEP 1)から逆算して、最もインパクトのある接点から着手します。採用が目的なら採用ページと面接の体験から。BtoBの新規開拓なら営業資料と初回商談の設計から。小さく始めて、効果を検証しながら次の接点へ広げていきます。

STEP 5:社内に「判断基準」として浸透させ、運用し続ける

最後に、ここまでのプロセスで固まった自社らしさを、日々の意思決定に使える「判断基準」として社内に残します。新しい施策を検討するとき、採用候補者を評価するとき、価格を決めるとき——「これは自社らしいか」を問える基準があれば、組織は自走し始めます。この運用フェーズこそが、デザイン経営の本当のスタートラインです。

事例紹介|地域の魅力を再定義した「函と館」プロジェクト

成果設計型リブランディングが実際の現場でどう機能するのか、BOELが携わった「函と館」プロジェクトを例に紹介します。このプロジェクトは、北海道函館市の魅力を新しい切り口で再定義し、地域ブランドとしての価値を高めていく取り組みです。

プロジェクト概要

函館が長年培ってきた観光資源や文化的背景を、現代の来訪者や関係人口にとって共感しやすい形に翻訳し直す——。単なる観光プロモーションではなく、地域が持つ本来の価値をどう言語化し、体験として設計するかが問われる取り組みでした。

BOELはプロジェクトの最上流、「何を伝えるか」「誰にとっての価値か」を定義する段階から関わり、ビジュアルやコミュニケーション設計までを一貫して担いました。

地域ブランディングに成果設計型の視点を持ち込む

地域ブランディングは、企業ブランディング以上に「きれいに見せる」で終わってしまいがちな領域です。ポスターや動画を作って終わり、という取り組みが少なくありません。函と館プロジェクトで意識したのは、ここでも「何が変わっていれば成功と言えるのか」を最初に定義することでした。

来訪者数という数値だけでなく、来訪者が函館を語るときの言葉が変わっているか、地元の人々が自分たちの街をどう紹介するようになるか——こうした定性的な変化まで含めて成果を設計していきました。

中小企業・スタートアップにも応用できる学び

函と館プロジェクトで得られた示唆は、地域ブランディングに限らず、中小企業・スタートアップのデザイン経営にもそのまま応用できます。自社が持っている資産——技術、歴史、人、地域性——を外から来た人の目で見直し、伝わる言葉とビジュアルに翻訳する作業は、規模を問わず普遍的に価値を生みます。

函と館プロジェクトの詳細は、BOELのプロジェクトページで公開しています。ぜひあわせてご覧ください。

経営者がまず動かすべき「最初の一歩」

ここまで読み進めていただいた中小企業・スタートアップ経営者の方が、明日から動き出すためのヒントをまとめます。大がかりなプロジェクトを立ち上げる前に、ひとりでも始められる3つのアクションを提案します。

アクション①:経営者自身が「3つの問い」に答えてみる

まず、紙とペンを用意して、3つの問いに答えてみてください。「自社は誰の、どんな問題を解決する会社か」「同じような仕事をしている競合10社と比べて、絶対に譲れない違いは何か」「3年後、顧客と社員が自社をどう説明していてほしいか」。書き出した答えに違和感があったり、言葉が出てこなかったりしたら、そこがデザイン経営の出発点です。

アクション②:既存顧客3人に電話して「なぜ選んだか」を聞く

マーケットリサーチのような大仰な話ではありません。長くお付き合いのある既存顧客に、率直に「なぜ最初にうちを選んでくれたのか」「他社と比べてどこが違うと感じているか」を聞いてみてください。経営者本人が聞くことに意味があります。顧客の言葉には、自社のブランドの核になる原石が必ず眠っています。

アクション③:信頼できるデザインパートナーを探し始める

自社内だけで完結するのは難しい、という判断になったら、外部のパートナー探しを始めます。選ぶ際に見るべきは、制作実績の派手さよりも、「経営の言葉で会話できるか」「成果指標の設計から関わってくれるか」「プロジェクト後の運用まで伴走してくれるか」です。発注者として対等に議論できる相手を選ぶことが、デザイン経営を失敗させないための最大のポイントになります。

まとめ|デザイン経営は、規模を問わず経営者の意志から始まる

デザイン経営は、大企業の贅沢品ではありません。むしろ、経営資源が限られている中小企業・スタートアップだからこそ、少ないタッチポイントの一つひとつに意味を込めるという意味で、デザイン経営の恩恵を最大限に受けられる立場にあります。

重要なのは、ロゴやウェブサイトから入らないこと。経営目標を起点にブランドの役割を定義し、自社らしさを経営者の言葉で言語化し、顧客と社員の声でそれを検証し、優先順位をつけて接点を整え、最後に社内の判断基準として運用し続ける——この順番を守れば、限られたリソースでも確かな変化を生み出せます。

BOELは「成果設計型リブランディング」という考え方で、中小企業・スタートアップ経営者の皆さまと、経営目標に直結するブランド設計を共に行っています。デザイン経営に踏み出したいが、どこから着手すべきか迷っている——そんな経営者の方は、ぜひ一度お問い合わせください。御社の経営課題を一緒に棚卸しするところから、対話を始めましょう。

本記事が、あなたの会社のデザイン経営の「最初の一歩」のきっかけになれば幸いです。

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