DESIGN

Vol.138

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M.S.

先進事例から読み解く行政とデザイン思考

#design#行政#design thinking#DX#自治体#アプリ#WEB#webサイト#先進事例#Service_design
Last update : 2025.11.6
Posted : 2025.11.6
今、「デザイン思考」の視点を持った取り組みは、行政の現場でも求められています。先進的に導入している自治体の例から、行政におけるデザイン思考について考えていきます。
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はじめに

デザイン思考とは

  • 1 共感:ユーザー(利用者)に共感し、ユーザーが何を考えているか、どういった課題があるかを洗い出す。
  • 2 問題定義:共感ステップで得た課題や気づきなどから、注目すべき問題を抽出・定義する。
  • 3 創造:定義した問題に対するさまざまな解決策を検討・創造する。
  • 4 プロトタイプ(試作):さまざまな解決策の中から絞って試作品を作る。
  • 5 テスト:試作品をユーザーに使ってもらうなどして、ユーザーにとって問題解決になるのか、価値があるものなのかをテストする。

先進事例1)保育園とのやりとりをアプリ上で

 

茨城県つくばみらい市では、子育てしやすい環境を整備するため、公立保育園と保護者を結ぶ双方向のコミュニケーションの基盤となるサービスCHROMO(クロモ)を導入しました。これにより、アプリ上で保護者が保育園に欠席・遅刻の連絡をすることができるようになりました。また、お便りのデジタル化、保護者向けのアンケートのオンライン化が実現できた、ということです。

アプリ上でのコミュニケーション
 

この事例を、デザイン思考のステップに当てはめて分析していきます。

共感や問題定義のステップでは、ユーザーの声にただ共感するのではなく、自ら対象になりきって、どんな課題があるかを考えていく必要があります。ユーザーが言語化できていない、より深いレベルでの課題が、問題の根本的な原因となっている場合があるためです。この事例では、共感・問題定義がとてもていねいに行われている印象があります。

具体的には、

「朝の忙しい時間帯に、欠席連絡のやりとりを電話で行なったり、紙ベースで連絡事項を伝えることがたいへんだ」
「保護者から役所への問い合わせ方法が電話に限られるとハードルが高く、保護者の声を集めることが難しい」
「若い世帯が多く、子育てに関する相談を誰にしたら良いかわからない、相談しづらい」

という課題に気が付いた点が、プロジェクトの成功のカギだったのではないかと感じました。利用者や現場の職員の声を直接聞いてみたり、自分がユーザーになりきって考えてみる、というところが、デザイン思考導入のポイントだと分かります。

先進事例2)検索しやすいお問合せページ

愛媛県松山市では、ホームページ内のよくあるお問合せ(FAQ)をまとめ直し、検索窓をつけるなど、充実化を図りました。この検索履歴を検証することで、時期によって住民に求められる情報を予測して、事前に公開することができるようになりました。そのため、FAQページへのアクセス数が大幅に増加し、電話でのお問合せを10%削減することができた、とのことです。

アプリ上でのコミュニケーション
 

引用:松山市「よくある質問と回答集(Q&A)」

この事例で設定されている課題は、こちらです。

「自分の疑問について、どの部署に問い合わせたら良いかわからない」

「役所のホームページは情報が多すぎて、調べづらい」

これらは、住民にとっては、優先して解決してほしい課題の一つです。しかし、自治体にとっては取り組みづらいものです。その原因の一つは、自治体内の部署を横断するプロジェクトとなること。組織としてこれを問題として捉え、予算に含め、チームを編成して取り組むなど、かなりの時間とお金が必要になってしまうためです。

その点で、松山市では、以前からお問合せに一元的に対応するコールセンターを設置していました。このことから、組織として、住民の疑問をスムーズに解決することを重要視していたのかな、と感じます。多様な課題がある中での優先順位の付け方という点で、デザイン思考のステップ2の問題定義が巧みです。

 

また、ステップ3にあたる創造の部分も素晴らしいと感じました。具体的には以下のポイントです。

  • 住民の目線で、住民の負担をなるべく軽減した解決方法(この例だと一元的にFAQが確認でき、検索も可能なページの設置)をつくることができている。
  • 検索履歴から分析し、傾向を捉えて事前に内容を編集することで、住民にとってより使いやすく、職員の負担も長期的に軽減するFAQページを実現している。
 

検索窓を設置する、という方法一つを取り上げてみれば、「当然のことではないか」と感じるかもしれません。ですが、ありきたりでも、行政に関する質問の対応方法としては、一元化されたプラットフォームから自分の知りたい情報を検索できるシステムは適切です。デザイン思考の考え方で一番大切なのは、手法が斬新かどうかではなく、ユーザーの課題を解決することができているかどうか。その点で、この松山市の事例は、デザイン思考を上手に活用した先進的な事例だと感じました。

おわりに

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