DESIGN

Vol.147

author

M.H.

Universal Design for Musical Instruments

#universal design#music#piano#technology#education#health issue#Well-being#design thinking#SDGs
Last update : 2025.11.6
Posted : 2025.11.6
There is accelerating movement toward recognising diversity and creating a society where everyone can live more comfortably. As part of this, the concept of universal design is gaining attention. This time, we introduce “universal musical instruments” that are designed so that children, elderly people, and those with physical disabilities can all enjoy music.
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What Is Universal Design?

はじめにユニバーサルデザインについておさらいします。

ユニバーサルデザインとは、
「年齢や性別、国籍、文化、身体の状況などの違いに関わらず、誰もが利用しやすく、暮らしやすい社会となるよう、建物やもの、仕組み、サービスなどを設計(デザイン)していこうとする考え方」のことです。

ユニバーサルデザインの具体例としては、自動ドアや多機能トイレ、ピクトグラムなどがあります。

Music and Universal Design

音楽は人々の心を癒し、感動を与えます。
しかし、身体的な障がいや能力の差異などによって、音楽を楽しむことができない場合があります。

例えば、聴覚障がい者や肢体不自由な方にとって、音楽を演奏したり聴いたりすることは困難であると考えられます。また、身体の小さな子どもや筋力の衰えた高齢者も音楽を自由に楽しめていない可能性があります。

こうした課題を解決するため、ユニバーサルデザインの考え方のもと、すべての人が音楽を自由に楽しむことができる環境を目指した様々な取り組みが行われています。

■ ユニバーサルコンサート

難聴といった聴覚に障がいを持った方は、音楽を聴くことが困難と考えられ、コンサートへ足を運ぶ機会が少ないと予想されます。ユニバーサルコンサートは、こうした方々も含めて、誰もが音楽を楽しむことができるコンサートです。

具体的には、ヒアリングループを利用した補聴器エリアの設置や、
凛舟という特殊な音響・振動装置の利用などにより、聴覚に障がいを持った方でも音楽を楽しむことができるコンサート作りが行われています。
その他にも、手話通訳によるサポートや、スクリーンに曲名や演奏者のメッセージを表示するなどの工夫が行われています。

■ 音楽授業のユニバーサルデザイン化

音楽教育では「聴覚からの情報を処理するのが苦手な生徒」に対するサポートが特に必要です。

聴覚から入る情報(音)は、視覚情報や触覚情報と異なり、具体物を確認することができないため、楽曲や旋律の動きをしっかり把握することが難しい場合があります。

そこで、音の動きを身体動作に置き換えて理解したり、タブレットで速度を変え、特定の音を目立たせて聴くなどの方法が実践されています。

授業のユニバーサルデザイン化を行うことで、生徒の身体的特徴や能力の違いに関わらず、すべての生徒にとって分かりやすく、楽しく学ぶことができる授業を目指されています(インクルーシブ教育の一環とも言えます)。

Various Universal Musical Instruments

ユニバーサル楽器は、より多くの人が音楽を楽しむことができる環境作りに大きく貢献しています。
様々な工夫が施されたユニークな楽器が開発されていますので、いくつかご紹介します。

1. Eye Play the Piano

Eye Play the Pianoは、筑波大学附属桐が丘特別支援学校と株式会社FOVEの共同プロジェクトによって開発されました。
手や腕を使わずに目の動きだけで演奏することができ、肢体不自由な方でもピアノを弾くことが可能です。

「目線」でデジタルの鍵盤を選び、「瞬き」をすることでピアノの鍵盤を押すという仕組みとなっています。単音モードと和音モードを併用することで、様々な楽曲を演奏することが可能となっています。

Eye Play the Pianoを用いて、筑波大学附属桐が丘特別支援学校高等部の男子生徒が約4ヶ月の練習を経てクリスマスコンサートを開催しています。また国内135校の肢体不自由な児童・生徒が通う特別支援学校への導入を目指して、クラウドファンディングが実施されました。それにより世界各国から100万円以上の寄付が集まり、日本国内の特別支援学校にEye Play the Pianoが寄贈されています。

 

Eye Play the Piano
出典:https://eyeplaythepiano.com/



2. だれでもピアノ

だれでもピアノは、東京藝術大学センター・オブ・イノベーション(COI)とヤマハ株式会社によって共同開発されました。1本の指で弾いたメロディーに伴奏とペダルが自動で追従するピアノです。
メロディーを自身のペースで弾くだけで伴奏とペダルがぴったり付いてくるので、子どもや高齢者、身体に障がいのある方、初めてピアノを弾く方であっても、ピアノを弾く楽しさを味わうことができます。

鍵盤を叩くと演奏追従システムがその信号を受け取り、予め作成した伴奏データと照合して伴奏やペダルの動きのタイミングを自動的に制御する仕組みとなっています。

障がいのある児童・生徒を主な対象とした音楽教育やワークショップなどで活用されています。また高齢者へ継続的なピアノレッスンを行うことで、生きがいの創出やQOL向上への効果も期待されています。

 

ARTs love ALLプロジェクト/東京藝術大学
出典:https://artsloveall.geidai.ac.jp/



3. ブンネ楽器

ブンネ楽器は、スウェーデンの音楽療法分野の第一人者であるステン・ブンネ氏によって開発されました。スウィングバー・ギター、ミニベース、単音フルート、チャイムバーの4種類があります。簡単に演奏できるよう、操作しやすい形状に設計されているため、手の小さい子どもや筋力の衰えた高齢者でも音楽演奏を楽しむことができます。

例えば、スウィングバー・ギターはバーを傾けて弦を弾くことで、4つの和音を簡単に奏でることができます。またギターの楽譜のかわりに「色」で音や和音を表した譜面が用意されています。譜面に示された色に合わせて、バーを移動させることで、直観的に演奏ができるよう配慮されています。

本格的な音色にこだわって作られており、子どもの音楽学習の導入としても最適です。
子ども向けのおもちゃのような楽器は音色が残念なものが多いですが、ブンネ楽器は“音遊び”の段階から美しい深みのある音色に触れることができ、子どもの感性を豊かに育むことができます。

また音楽を演奏することで、精神面に良い影響を与えることや、脳神経の活性化を促すことが科学的に証明されています。ブンネ楽器は初めての人でも簡単に演奏できるため、合奏や弾き語りをするなど、高齢者の認知症予防を兼ねた楽しい趣味としても注目されています。

 

ブンネ楽器
出典:http://www.bunnemusic.jp/instrument/

At the end

誰もが自由に音楽を楽しむことができるようにデザインされた「ユニバーサル楽器」についてご紹介しました。ユニバーサルデザインはより多くの人のために、さまざまな声を取り入れながら変化していくもので、終わりがありません。今後も新たなユニバーサル楽器の開発により、より多様な人々が音楽を楽しむことができる環境が作られることを期待します。

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