イラストレーター
M.N.
新緑の若葉の季節になりました。 私たちは、季節に合わせたデザインやイラストを創作することがあります。古来より伝わり、現代に至るまで、私たちの生活に深く息づく日本特有の色彩感覚は、日本文化の表現として大変価値があります。 今回は、夏をテーマにした日本の伝統色や文様、夏にぴったりの配色をご紹介します。

日本では自然の色が伝統色に深く関係しています。夏といえばどんなイメージを想像しますか?
真夏の太陽に照らされたような鮮やかな色だけではありません。生命がみなぎり色を増す輝きや、しっとりした雨の艶やかさや、暑さを避けるように涼しげを色として表現することもあります。
夏という言葉一つ想像してみても、「暑さ」「艶やかさ」「涼しさ」など印象が分かれます。
どれも夏のイメージとしてぴったりですね。
次は夏の暑さや涼しさを色で表現する方法をご紹介します。
夏の強い日差しによって、花などの彩度の高い色はより鮮やかに見えます。夏に咲く花や夏に成長し生命感溢れる植物からとった色をご紹介します。
二藍
ふたあい
#888ABC
R:136 G:138 B:188
C:58% M:50% Y:0% K:0%
紅
べに
#C41A41
R:196 G:26 B:65
C:10% M:100% Y:53% K:10%
若苗
わかなえ
#C7DC68
R:199 G:220 B:104
C:10% M:0% Y:53% K:14%
黄色
きいろ
#FFD900
R:187 G:38 B:46
C:25% M:96% Y:85% K:5%
瑠璃色
るりいろ
#004898
R:000 G:72 B:152
C:100% M:70% Y:0% K:10%
卯の花
うのはな
#FBFBF6
R:251 G:251 B:246
C:1% M:0% Y:4% K:2%
紺桔梗
こんききょう
#4d5aaf
R:77 G:90 B:175
C:56% M:49% Y:0% K:31%
檸檬色
れもんいろ
#ECDF2B
R:236 G:223 B:43
C:7% M:13% Y:83% K:0%
萌葱色
もえぎいろ
#006e54
R:0 G:110 B:84
C:100% M:0% Y:24% K:57%
日本では重色(かさね色)という、衣装を重ねて着るときに季節の色を参考にしていました。
重色(かさね色)をそのままデザインの配色として使用するには、色同士の彩度が強いため扱いづらい場合があります。
この場合は彩度対比の効果を考えて配色します。
彩度対比とは彩度の異なる色が影響しあい、色の鮮やかさが変わって見えることです。
彩度が高い色はより鮮やかになるのに対し、彩度が低い色はよりにぶく、くすんで見える対比効果です。
彩度の高い色がよりはっきり見えるため、さし色などポイントで使用すると効果的です。
また、白を組み合わせることで夏の日差しを表現できます。
暑いときほど冷たい海や水、強い日差しをさえぎる木など寒色をイメージしたりしませんか?
涼しげな色というと青色のイメージがありますよね。
その他に若竹色(わかたけいろ)や小鴨色(こがもいろ)を使った高原の夏を思わせる配色をご紹介します。
小鴨
こがも
#00595D
R:136 G:138 B:188
C:58% M:50% Y:0% K:0%
緑青
ろくしょう
#557857
R:85 G:120 B:87
C:48% M:0% Y:31% K:47%
新橋
しんばし
#FFD900
R:85 G:120 B:217
C:65% M:0% Y:15% K:0%
薄浅葱
うすあさぎ
#00A4AC
R:0 G:164 B:172
C:76% M:5% Y:29% K:0%
若竹色
わかたけ
#7CC28E
R:124 G:194 B:142
C:60% M:0% Y:60% K:0%
露草
つゆくさ
#71A4D9
R:113 G:164 B:217
C:60% M:23% Y:0% K:0%
梔子色
くちなしいろ
#FFD768
R:255 G:215 B:104
C:0% M:16% Y:59% K:0%
藤色
ふじいろ
#BAA7CC
R:186 G:167 B:204
C:32% M:37% Y:6% K:0%
青朽葉
あおくちば
#ada250
R:173 G:162 B:80
C:0% M:6% Y:54% K:32%
全体を寒色系にまとめて涼しさを出したり、白を加えて清潔で爽やかな印象になります。
飲料系のWebサイトでは涼しげな色をグラデーションさせて清涼感を演出しています。
夏に撮影した写真から色を抽出するのもよいかもしれません。写真から抽出する際は実際にPhotoshopなどのスポイトツールでとった色と、実際に目で見た色を比較すると写真よりも彩度が高くなったり、同じ色に見えない場合があります。その際は実際に目で見て色を近づけるよう調整します。

夏の色と組み合わせて季節の風物詩である文様を一緒にあしらうと夏らしさがさらに際立ちます。
今回は金魚など水辺の生き物の文様をご紹介します。
麻の葉を連想することから名付けられた模様です。
麻の葉文様は、正六角形を基調とした幾何学的な連続模様で、大麻の葉に似ていることから名づけられました。
まっすぐに伸び成長する縁起物として古くから親しまれ、現代でもWebサイトや商品のパッケージに多く使われています。
シンプルな幾何学文様は、着物のように全体に敷き詰める配置でも落ち着いた印象を与えます。
自然の穏やかな波が続く様子を表現した文様です。
名前の由来とされるのは、平安時代から伝わる舞楽(ぶがく)の演目の一つで、二人で舞う平舞(ひらまい)で、寄せる波、引く波を表現した雅楽の装束や工芸品にも用いられる伝統的な文様です。
未来永劫にわたり平穏な生活が続くようにという願いが込められた吉祥柄とされており、厄除けの意味合いを持つこともあります。
麻の葉紋と同じく幾何学的な文様は背景やちょっとしたアクセントとして使用できます。
「組子文様デザイン 青海波 日本伝統装飾|組子のタニハタ」
出典:https://www.tanihata.co.jp/products/tn-111/
※紹介する事例の引用元サイトは、一定の期間を過ぎるとクローズする可能性がありますので、ご了承ください。
模様としての歴史は浅いですが、夏物の着物や浴衣に用いられ、涼やかさと遊び心を表現する文様として親しまれ、華やかな姿が人気の高い文様です。
一匹だけでも作品にインパクトが出るだけでなく、流水や水草と合わせて涼しく見せられます。また、金魚は富や幸福、多産などの縁起物とされ、金運上昇や魔除けの意味も持つとされています。
夏に咲く代表的な花です。浴衣や着物の文様として使われることが多く、暑さをしのぐアイテムや涼しげなデザインの中に使われます。
朝顔は原産は日本ではなく、ヒマラヤとされています。奈良時代から平安時代にかけて薬用として遣唐使によって中国から伝えられたといわれ、文化・文政の江戸時代には観賞用として流行し、浮世絵などに盛んに用いられました。
紫陽花は日本固有の花で、「万葉集」にも詠まれているほど古くから知られ、鎌倉時代に演芸化されました。青紫色の大きな花が好まれて、江戸時代には陶磁器や蒔絵などの工芸品に琳派が巧みに文様化しています。
紫陽花は梅雨から盛夏にかけて咲く花のため、初夏の季節感を表す文様として、雨のイメージを連想させ、涼しげな印象を与えます。
雨に濡れ一層美しく涼しげに咲く文様は、暑い日に用いるグッズの柄としても多く使われています。
「nugoo 【拭う 鎌倉】 本染め手拭いの通販ページ
(あじさい小道 折りたたみ日傘)」
https://nugoo-next.stores.jp/items/65ee9e1fea2af0002b4a1cfd
日本の伝統色は、四季のうつろいや自然の風景、そして日本人の暮らしの中から生まれた色です。古くから、草木や花、空、海、土、そして光と影といった自然の移ろいを、染めや絵、器などに映し取ってきました。そのため、単なる色名ではなく、そこには情景や心情、詩的な意味が込められています。たとえば「藍色」は藍染の深く静かな青を表し、「薄紅(うすくれない)」は春の桜を思わせる柔らかな桃色、「萌黄色(もえぎいろ)」は新緑の息吹を伝えます。
夏の伝統色には、涼やかさや清らかさを感じさせる色が多く見られます。たとえば、朝顔の花を思わせる「浅葱色(あさぎいろ)」や、水面に光が差し込むような「水色」、夕暮れの海を映す「群青(ぐんじょう)」などは、夏の風情を軽やかに彩ります。こうした色は、浴衣や着物の文様にも季節を表すモチーフとともに取り入れられ、視覚的にも涼を感じさせる工夫がなされています。
現代では、インテリアやプロダクト、グラフィックデザインの世界でも伝統色が再び注目されています。伝統色は一見落ち着いた印象を与えながらも、組み合わせによってはモダンで洗練された印象にも変化します。たとえば、「藍色」と「生成り」や、「浅葱」と「白群(びゃくぐん)」を組み合わせると、清潔感と上品さを兼ね備えた夏らしい配色になります。
このように、日本の伝統色は単なる色彩ではなく、文化や感性を映す鏡のような存在です。古来の色名や由来を知ることで、デザインやイラストづくりに新たな発見があり、季節や情緒をより深く表現する楽しみが広がります。
出典:ANA鳥取美人物語
出典:冷やして愉しむ 夏の日本酒 「日本酒がうまい!」推進委員会
出典:綾鷹(あやたか)
出典:組子文様デザイン 青海波 日本伝統装飾|組子のタニハタ
出典:染の安坊
出典:nugoo 【拭う 鎌倉】 本染め手拭いの通販ページ
参考:きもの用語大全
参考資料:伊達千代「配色デザイン見本張」
参考資料:佐野 敬彦「日本の配色」
今日もあなたに気づきと発見がありますように