BRANDING

Vol.171

author

T.M.

The relationship between branding and strategic design in elevating brand value

#branding#Strategic design#vision design#design thinking
Last update : 2025.11.6
Posted : 2025.11.6
Strategic design applies design perspectives and thinking to approach corporate management issues and social challenges in a strategic way. As the role of designers shifts from “creating forms” to “reframing meaning and value,” how does strategic design intersect with branding?
We have explored the essence of strategic design and the role of strategic designers in the previous two articles.

“Branding” and “strategic design” are now both essential concepts for corporate growth and strengthening competitiveness. However, in many cases, their differences and respective roles are used ambiguously.

In this article, we clarify the differences and commonalities between branding and strategic design, and further examine their deeper, mutually reinforcing relationship.

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ブランディングとストラテジックデザインの違いと共通点

まず、ブランディングとは何か?ストラテジックデザインとは何か?を以下にまとめています。

観点 ブランディング 戦略デザイン(ストラテジックデザイン)
対象 顧客との関係づくり 経営課題・事業全体
手法 視覚的・感情的な訴求 論理的・構造的な問題解決
出発点 顧客にどう見られたいか 社会や顧客に何を提供するか
成果物 ロゴ、メッセージ、体験設計 事業コンセプト、サービス設計、組織設計

・ブランディング

従来のブランドは主にマーケティングの視点から論じられることが多くありましたが、近年はデザインの視点からブランドが見直されるようになりました。

後述する「ブランドにおけるコンテキスト(文脈)」の重要性について語られるようになったのも、ブランドを形成する社会的・文化的背景を考慮し、それに即したデザインによるアプローチからです。
ブランディングを具体的に知りたい方は、過去の記事も合わせてご覧ください。

・ストラテジックデザイン

ストラテジックデザイン(戦略デザイン)とは、主に企業や組織が目指す戦略的な目標にデザイン思考でアプローチするプロセスを指します。製品開発や設計にとどまらず、経営戦略や組織改革など幅広く関与しますが、ユーザーや経営マネジメントの両視点を持つ点が特徴的です。
また、ストラテジックデザインは、「意味のデザイン」という概念と深く結びついており、製品やサービス単体だけを見るのではなく、文化的・社会的な意味を持つ存在として、サービス全体であったり、カスタマーやステークホルダーを含めたビジネスやシステム全体を設計することを重視しています。

ブランディングとストラテジックデザインについて簡潔に触れましたが、両者は似ているようで実は大きくアプローチの仕方や目的に違いがあります。

・ブランディングとストラテジックデザインの共通点

ブランディングとストラテジックデザイン、両者には欠かすことのできない共通点があります。

その共通点は、ビジョンと顧客視点です。

まず、ブランディングにおいても、ストラテジックデザインにおいてもビジョンなくしては実現しません。将来の望ましい姿を描き、それに向けて戦略をデザインするのがストラテジックデザインであり、MVPを策定し、ブランドの価値を正しく伝え、施策を実行するのがブランディングだからです。

顧客視点も両者にとって欠かせない要素です。

ブランディングとストラテジックデザイン(デザイン)は顧客の視点抜きには成立しません。顧客のインサイトや感情、行動の背景を知ることで、ユーザーにとって”利用する意味”が創造できます。また、顧客との関係性を育む意味でも、ユーザー中心の価値創造が求められます。そのことからも顧客視点は欠かせません。

相互に補完し合うブランディングとストラテジックデザイン

これまでブランディングやストラテジックデザインの違いや共通点について紹介してきました。ブランディングとストラテジックデザインはそれぞれ独立した考え方やアプローチの手法をとりますが、実は相互に補完し合う関係を築くことが可能です。

例えば、ストラテジックデザインのアプローチにより設計された価値や体験をブランディングで言語化、VI(ヴィジュアルアイデンティティ)に落とし込み、共有・伝達する流れが考えられます。

戦略やリサーチによる価値や体験の設計(ストラテジックデザイン)→言語化、VIによる可視化、共有・伝達(ブランディング)

つまり、ストラテジックデザインとブランディングは、企業においては「内」と「外」の役割を担うともいえます。

ストラテジックデザインが内部の設計図を描き、ブランディングがそれを外部に伝えていく。

外観や見た目を良くするだけではブランドは育ちません。
ブランドが持つ思想や価値観そのものが一連の顧客体験として伝える時代だからこそ、ストラテジックデザインの戦略的、かつ広い視点を取り入れた長期的なブランディングによって、持続可能で共感・支持されるブランドを育てていけるのです。

こうしてブランディングとストラテジックデザインの役割を分担・連携することで「考えた価値」が「届く価値」へと変換されます。

1.戦略デザインが全体像を描く(Why・Whatの設計) 例:どの顧客に、どんな変化をもたらすかを定義する

2.ブランディングがその価値を伝える(Howの実装) 例:ビジョンをロゴ・コピー・顧客体験として一貫して可視化する

また、ブランディングとストラテジックデザインが連携することで、以下のようなメリットもあります。

・一貫性のあるブランド体験を設計できる

ブランディング施策にストラテジックデザインの視点を取り入れることで、経営目標や戦略に基づくブランド表現が可能になります。また、見た目だけでない意味の部分が明確になり、また顧客との接点から製品・サービス、社会における組織の在り方にまで一貫した「Why」を設計、顧客体験を構築できます。

・組織のコミュニケーションが円滑化し、意思決定がスムーズに

ブランディングとストラテジックデザインが結びつくことで、「この方向性で合っているのか?」という迷いが減ります。ブランディング施策の方向性を、ストラテジックデザインの戦略的、かつHCT(人間中心)やユーザーの視点、幅広い視点での洞察により多角的に検証することにより、目的や手段を明確にしていきます。コミュニケーションの過程においても、ストラテジックデザイナーによるコミュニケーションデザインに基づく仕組みやアイディアにより、チーム全体で同じ方向に進む土台づくりができます。

ブランドのコンテクスト(文脈)がストラテジックデザインに与える影響

ブランディングとストラテジックデザインの連携について説明しましたが、ここでブランディングにおいて重要視されるコンテクストの概念がストラテジックデザインに与える影響について紹介します。

ブランドのコンテクスト(文脈)とは、ブランドの背景、関係性、意味づけを指し、それを深く読み解くことをいいます。
ロゴやキャッチコピーを変えるだけでは、ブランド力は強化されません。例えば、同じ「赤」を使ったロゴであっても、コカ・コーラとユニクロでは意味がまったく異なるのと同様、見た目だけではなく、意味や背景、歴史や文化をを深く掘り下げることによって、顧客だけでなくステークホルダーに深く共感されるブランドとなることから、ブランドのコンテクスト(文脈)化は重要です。

スウェーデン・ヨーテポリにあるチャルマース工科大学で行われた実験的な大学院生向けプロジェクトから得られたデータをまとめた研究結果「Strategic Design through Brand Contextualization(ブランドの文脈化を通じたストラテジックデザイン)」では、ブランドの文脈化がストラテジックデザイン(戦略デザイン)にどのようなインパクトを与えるのかを、理論的・実践的な観点から考察しており、興味深いです。

この研究結果によると、ブランドは単なるマーケティング資産ではなく、戦略的思考を喚起する出発点として機能することが確認されたとされ、ブランドのコンテクスト(文脈)を分析することで、問題の構造や価値の本質に深く切り込んでいます。また、デザインにおいて単なる形の創造ではなく、意味の媒介、および創出プロセスであるという視点が強調されている。つまり「何を作るか?」という以前に、「それはどんな意味を持ち、誰にとってどのような価値を持つのか?」という問いを掘り下げていく工程から、「意味に基づくデザイン思考」の重要性が説かれています。これはまさにストラテジックデザインの考えそのものです。

その上で、ブランドの背後にある歴史、文化、関係性、価値観などのコンテクスト(文脈)を可視化するプロセスは、「問題の根底にある構造や意味への気づき」をデザイナー(ストラテジックデザイナー含む)に気づかせ、ブランド文脈化の本質を説いています。
ここにもブランディングとストラテジックデザインの関係における新たな可能性を感じます。

参考資料:「Strategic Design through Brand Contextualization」
著者:Toni-Matti Karjalainen(アールト大学 経営学部、フィンランド ヘルシンキ)
Alexandros Nikitas(チャルマース工科大学、スウェーデン ヨーテボリ)
Ulrike Rahe(チャルマース工科大学、スウェーデン ヨーテボリ)

まとめ

これから企業には、「見た目の美しさ」だけでなく「経営戦略と整合性のあるブランド設計」が求められます。
そのためには、ブランディングで「どう見せるか」だけでなく、ストラテジックデザインで「なぜ・何のために」を問い直す、という両輪のアプローチが重要です。

「戦略デザイナー」や「ストラテジックデザイナー」というスペシャリストと共に、自社の強みを言語化し、社会にとって必要な存在としての「ブランド」を育てていきましょう。

ブランディングとストラテジックデザインの融合は、変化に強い企業体質をつくるための“新しい常識“になりつつあります。本記事がこれから本格的に自社のブランディングを強化したいと考える企業にとって、ブランディングとストラテジックデザインの考え方を融合させることでどのような成果がもたらされるのか?を考える一助となれば幸いです。

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